2007年02月11日

11:黒の戦神

ラファエルが視線を巡らせる
自分の周囲を取り囲んだ魔物達を感情もなく見渡した。

後方に二人の気配を感じる。
先ほど出会った二人組のヒューマンが追いついたのだろう。
義理堅い種族であるから、手助けをしようと考えているだろう。
脆弱な種族であるにもかかわらず、妙に正義感や責任感が強い。
たとえそれが自身の力の及ぶ範疇にない物事であっても。

普段ならそのおせっかいがありがたくも思えるだろう。
しかし、今はいらない。
この魔物どもを悉く自分の手で殲滅させてやるのだ。
他人の手など借りたくはない。

「手出しは無用だ」

男のヒューマンがなにか言いかけたようだが・・・
それに耳を傾けている暇などない。

『狩り』の始まりだ


魔物達が動きを見せた。
決して早い動きではないが、その圧倒的な数はそれを補って充分なものであった。
徐々に包囲の輪が狭まる。
ここにきて初めてラファエルも構えをとった。
両手にスティングという投擲武器を携える。
そして傍らで警戒態勢をとる獣に言葉をかけた。

「セロ・・・輪を崩せ」

セロと呼ばれた銀毛の獣は主の言葉に低く呻って反応する。

「・・・了解した・・・」

その言葉と同時に銀色の光が魔物達に向かって走った。
正に目にも止まらぬ早さで、
セロはその体に月の光を反射させながら、周囲を囲む魔物達の間を一閃した。
すれ違いざまに、幾重にもなった包囲の輪を成す魔物達の喉笛を裂き、足を砕き、脇腹を食いちぎっていた。
一瞬にして包囲の輪の外へと出たセロは
牙を剥いて一度低く呻った後、緩慢な動きをする魔物達に躍りかかっていた。

ラファエルはセロが駆けたと同時に、
左右に迫る魔物達にスティングを撃つ。
またたきひとつの間に、ラファエルの姿は魔物達の視界から消える。
彼には一瞬の足止めで充分だった。
その一瞬でラファエルはクロウを装着しており、魔物の懐に飛び込んでいた。
低い体勢から重い打撃を次々と打ち込んでいく。
その都度、辺りには魔物の手足が飛び、肉片が散り、腸が撒き散らされた。

その動きにはひとつの無駄もない。
自分の有利な距離を作り出し、時には魔物の立ち位置まで利用して機を作り出している。
軽やかに大木に飛び移り、勢いを増しつつ群れの中へ飛び入る。
その動きに魔物達は獲物を捕らえ切れていない。
ラファエルは着地と同時に3匹の魔物を爪牙で打ち倒す。
着地した低い体勢から一気に体中のバネを伸ばすように
次に控える魔物の胸に重い蹴りを叩き込む。
衝撃を受けた魔物はバランスを崩し、後ずさって背後にいる魔物とぶつかった。
絡み合った二匹が体勢を立て直そうとするが、
ラファエルはすぐさま距離を詰め、二匹の魔物を貫く。
魔物の背中からは、粘液が付着した鋭い爪が生えていた。

内と外
獲物を包囲したはずの魔物の輪は
2方向からの突破により、徐々にその形が崩されていった。


その戦いを間近で見たヒューマンの二人
ティファとアルバートは、次々と魔物の残骸が生み出される凄惨な光景であるにもかかわらず、
息を飲み、知らずラファエルの動きに見とれていた。
元来、ダークエルフという種族は
『暗殺者』としての異名が表すように、1対1の戦いを得意としている。
その体術も主に、一つの対象に対して最大の威力を発揮する。
しかしラファエルは、明らかに一対多数の戦いに慣れていた。
そのことを察知したアルバートは、
ラファエルの異様な強さにわずかに恐怖感すら覚えた。

数分もすると
魔物の数はすでに半分以下にまで減っていた。

「たしかに・・・手出しする必要もなかったな・・・」

不自然な苦笑を浮かべ、アルバートが呟いた。
ティファは言葉を発することすら忘れ、アルバートの呟きにただうなずくだけだった。


残る魔物はあと数匹
ふいに
ラファエルとセロが動きを止める
残っていた魔物も動きを止めた
やや離れたところでその光景を見ていたティファとアルバートが、
その場から動けなくなるほどの、すさまじい殺気が膨らんだことを察知した。
殺気はラファエルからのものだった。

ダークエルフよりも感覚の劣るヒューマンには
その理由に気付くまでに数瞬の間が必要だった

ラファエルの殺気は
新たに森の奥から姿を現した、たった一人の相手に向けられたものであった。

ラファエルの姿のさらに奥
森の最奥の闇から現れた者は
美しい『上位種』と呼ばれる存在
女のエルフの姿をしていた。

posted by ラストエフ at 02:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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