2007年04月25日

14:銀の閃光

アルバートの剣が閃き、魔物の持つ剣らしきものと打ち合わされる。
その一瞬の隙を衝くように、もう一匹の魔物が背後から襲いかかってくる。
しかし、それをティファが矢を放って退かせる。
アルバートは即座に、正面にいる魔物の腹を蹴って距離を取ると同時に、背後に迫っていた魔物の胴を振り向きざまに横に薙ぎ払い真っ二つに切り捨てた。
魔物の断末魔を確認することもなく、アルバートは体勢を立て直し、次に迫る魔物と対峙する。
やや離れた場所にいるティファが周囲に視線を巡らせ、弓を構える。

息をつく暇もなく襲い来る魔物の群れ。
一匹に時間を割いている訳にはいかない。
倒しても倒しても魔物は引くことを知らず、しかもそのどれもが油断できないほどに手強い。
終わりの見えない戦いに徐々に二人の息は上がる。
このままではいつか限界が来るであろうことは明白であった。
それでも二人は最大限に集中力を高め、着実に魔物の数を減らしていった。



ヒューマン二人と魔物達との戦いの場からやや離れた場所では、エルフの女性とダークエルフの青年が睨み合う形となっていた。
エルフの足下には、やっと解放されたハイウルフが苦しそうに、おぼつかない足取りで立ち上がろうとしていた。
相変わらずエルフの女性は足下の獣に微塵も興味を示さず、その視線はダークエルフの青年、ラファエルに向けられていた。
その眼差しはどこか愛おしさに満ちているように見える。

「・・・グ・・・ゥ」

ハイウルフ、セロが呻きながら尚も立ち上がろうとする。
ラファエルは警戒しつつ、セロに言葉をかける。

「下がれ、セロ」

「・・・すまない、マスター」

セロはノドを痛めたのか、やや掠れた声で低く呻り、それでも俊敏な動きで主であるラファエルの元へと戻った。
ラファエルは隣に位置した相棒の様子を横目で伺い、重傷がないことを確認した。

「セロ、あの二人に付け」

ラファエルは正面にいるエルフから視線を外すことなくセロに命じる。
あの二人、とは後ろで多勢の魔物達と死闘を繰り広げているヒューマンのことだ。
その命令に、一瞬セロは後ろを振り返りヒューマンの様子を確認する。
たしかに二人ではあまりにも不利な状況だった。

「了解した」

セロはそう応えると、主の命を実行するべく二人のヒューマンの元へと疾走した。



アルバートとティファは変わらず多勢の魔物達と戦い続けていた。
先ほどと比べて、二人の疲弊は明らかに見てとれる。
アルバートは肩で息をしており、ティファも同じように大きく肩を上下させていた。
しかし、二人の目は強い意志がみなぎっており、諦めることはなかった。

魔物は容赦なく二人を攻める。
意志が折れることはなくとも、悲しいかなその体力にはやがて限界が訪れる。
同時に二匹の魔物に襲いかかられたアルバートが体勢を崩し、地に片手を着く。

「アルバート!!」

ティファが思わず悲鳴のように名前を叫んだ。
アルバートの足払いが地面を滑るように片方の魔物の足元を薙いだ。
バランスを崩された魔物の額にティファが放った矢が深々と突き刺さる。
しかし、もう片方の魔物がアルバートに逼迫している。
体勢を立て直す間もなく振り下ろされる魔物の剣を、懸命に打ち返す。
ティファがその魔物に弓を構え、照準を合わせようとするが、他の魔物がその間に入り支援することができない。

二人に焦りが生じる。
ティファは必死にアルバートを助けるべく矢を放ち、アルバートを包囲しようとする魔物達を次々と打ち倒す。
しかしそれでもアルバートの姿は魔物達の陰になり完全に囲まれてしまった。
剣の打ち合う音と、地面に転がる魔物の屍が生み出されていることからアルバートはまだかろうじて戦い抜いていることは伺える。
ティファは弓を背に戻し、決死の覚悟で腰に携えた短剣を手に取った。
そして唇を噛みしめ、今まさにアルバートを助けるために魔物達の群の中へ飛び込もうとしたときであった。

銀色の閃光が、アルバートを包囲する魔物達の群にぶつかるように飛び込んできた。
ティファの目ではそれを捉えることができなかった。
魔物達は新たな予想外の敵の出現に、動きに混乱が生まれる。
予想もしない助力の正体は、銀毛の獣、ハイウルフであるセロだった。
セロは手近にいた魔物の足首をくわえ、振り回して周囲の魔物数匹を蹴散らした。
その勢いでアルバートを包囲する魔物の輪に穴が開く。
さらに振り回された魔物は、その膂力で足首から千切れて飛ばされ、他の魔物達と激突した。
そしてアルバートに対して剣を振り下ろそうとしていた魔物に背後から飛びかかり、地面に引きずり倒したあと、首を切り裂いてその命を刈り取った。

外部から魔物の包囲網が崩されたことを悟ったアルバートは、即座に自分を取り囲む魔物達の隙を衝いた。
魔物の包囲から解放されたアルバートがようやく体勢を整える。
そこで初めて、自分を助けたのがハイウルフであることを知った。
少なからずの驚きを隠せないでいると、セロが短く言葉を発した。

「マスターの命により、手助けする」

ここに来て心強い存在が合流した。
セロの戦闘力がただならぬものであることは先刻から目の当たりにしている。
アルバートは口元に笑みを浮かべて、珍しい共闘者に応えた。

「そいつぁありがたい、よろしく頼むぜ!」

疲弊した二人にとってセロの参入はありがたいものだった。
アルバートは剣を構え直して、セロと並ぶ形で魔物と対峙する。
ティファもアルバートの無事を確認し、近くまで駆け寄ってきていた。
二人と一匹はさらなる死闘に対処すべく、陣形を立て直し魔物達を迎え撃つ。
不思議なことに、心強い共闘者が増えたことによって、二人の闘志は再び沸々と湧き上がっていた。
それに呼応するようにセロも低く呻り戦闘態勢に入った。


死闘はまだ終わりを見せる気配がない。
今にも爆ぜそうに膨れあがる闘気と、不気味なほどに静かな二人の人外の殺気で染まっていた。
posted by ラストエフ at 16:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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