2008年03月28日

女主人「いらっしゃい」

(からんからん)


いらっしゃい
酒場「虹色の風」亭へようこそ

ご注文は?

ん?
紹介?

ふむ・・・困ったな・・・

私は昔から口下手でね
よく無愛想だと言われるくらいだ
喋るのはあまり得意じゃないんだが・・・

私の拙い言葉で良ければ紹介しよう


まずはここ、「虹色の風」という店を紹介しようか
この名前にはいくつかの意味が含まれていてね
たくさんの旅人や冒険者が訪れ、去っていく
流れる風はその場に留まることがないように
そんな風達がふと足を止めて立ち寄っていくような店
そして旅や冒険の疲れを少しでも癒せるような店
そういった願いがこめられているんだ

新しい風や懐かしい風
世界には色んな風がいる
この店に来る風も様々だ

それで、虹色
風はこの店に訪れる客達
・・・という意味だ

他の意味?
ふむ・・・
意味というか、簡単に言えば私が所属する血盟の名前をそのまま頂いたんだ
もちろんそこの君主には了解を得ている
なかなか居心地のいい血盟でね

先代の君主はもう隠居して、今はその娘が君主の座に就いている
まだ若いが、しっかりした子だ

血盟の紹介はまた今度にしようか


次は私の紹介だね
私の名は「エルガ」
この店の店主と料理長をしている
もちろん一人で経営しているわけじゃない
私を支えてくれる夫と、昔からの友人が手伝ってくれている
二人の紹介はいずれ本人にしてもらうといい

昔は剣を手に世界を回ったこともあるが・・・
今の血盟に所属していた人から料理の腕を見込まれてね
その人が引退する時にこの店を譲り受けたんだ
こういった店を持つのは夢でもあったし
根無しだった私には願ってもない話だったね
今では毎日が楽しくて仕方ない

たまに客同士の諍いがあったりもするがね
もう慣れてしまって日常茶飯事さ


・・・
そんなに嬉しそうに話してたかい?

ふう
珍しく多弁になってしまったな
こんなに喋ったのは久しぶりだ

ふむ
もうこんな時間か
そろそろ慌ただしくなってくるな
料理の下ごしらえでも始めるとしよう


今日はもういいのかい?
そう
またいつでも来ておくれ



(からんからん)
posted by ラストエフ at 04:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月26日

23:唯一の意思

深い深い森の奥は、満月に近い月の光も届かない。
暗い闇に聞こえるのは木々のざわめきと動物達の寝息だけ。
人間は踏み入れたことがないであろう未開の森の最奥に、
その場所にそぐわない人影を見つけることができた。

その人影は月明かりを欲していたかのように、数ある森の大樹の力強い枝に立っていた。
そこからは森が一望でき、森の中には届かない月の光も全身に浴びることができた。
透き通るような白い肌が月明かりに映え、黄金の髪が光を反射して煌いている。
その人影は枝の上に立ち、高い場所から月を見つめていた。

その人影の姿を、知らない者が見れば美しい光景であると心奪われるだろう。
なぜなら、それは上位種とも呼ばれるこの世に現存する至高の存在であったのだから。
しかし、見た者は同時に違和感を抱くだろう。
なぜ、魔物が徘徊するような不吉な森の奥に、上位種であるエルフがいるのだろうか、と。



彼女は無意識に唄を口ずさんでいた。
なぜ自分が唄を知っているのか。
この『身体』の、薄れてしまった記憶だろうか。
それとも今の存在となる前の『自分』が知っていたのだろうか。

もうそんなことはどうでもいい。
自分が何者なのか、そんなことに興味はない。
地面を這いつくばっていた頃の記憶がある。
同時に、上位種として存在した記憶もある。
ならば、今の自分はそのどちらなのか。
そんなことはどうでもいい。
今の自分がひとつの存在としてここに在る。
それだけでいい。

眷属である魔物達は、獲物を体内に摂取しなければならない。
しかし、自分にはその必要がない。
獲物の持つ命を吸うだけで事足りる。
それはその者が持つ『力』だ。
その『力』は『光』として認識できる。
それを我が物として取り込むことができる。
他の魔物達にはできないことだ。
それだけで、自分が明らかに異種であると確信することができる。
それなのに、自分には眷属達を意のままに操ることもできる。
私は魔物なのか・・・
上位種なのか・・・
それとも
他のまったく違う存在なのか・・・

いや、
それすらも、
どうでもいい

あるのは、ただひとつの欲求だけだ。


彼女はふと、自らの両手を見つめた。
白く小さく、華奢な手だ。
美しく整った手なのに。
左手のひらには火傷のような痕が残っている。
先日、ヒューマンの女が放った矢によってできた傷跡だ。
少々の傷であれば、一日もしないうちに回復することができる。
しかし、この傷は違った。
退魔の力の込められた矢によってできた傷跡は、一日経っても治る気配がない。

彼女は気づいていた。
自分は異種なのだと。
上位種の力を持ちながら、魔の属性をも同時に併せ持っている、と。
相反する属性が存在するこの身体が、この先どのような変化があるのかを。
それを回避するために、今あるのはひとつの欲求だけだ。

月を見上げる。
おそらく明日、この歪で不完全は月は、その姿を完全な満月として空に掲げるだろう。
魔物の力が最大となる満月の夜。
そのとき、身の内に秘められている魔の力が引き出される。
身体の中でふたつの力が激しくぶつかりあうだろう。
そして結末を、終焉を迎える。
時間が残されていないことを彼女は悟っている。
そしてこの身体が崩壊することを彼女は悟っていた。

この先、この身体とこの力を持ったまま生き抜くためには、必要な物があることも彼女は知っている。
もうひとつの『光』を我が物とするのだ。
もうひとつの『光』・・・
それは、自分を追う一人の男。
一ヶ月ほど前に初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい感情があったことを覚えている。
それも、この身体の記憶だろうか。

あの男に会いたい。
あの男を我が物としたい。

それだけが、
今ある欲求だ。


自分の中に取り込んでしまえば、
ずっと一緒にいられる。

この欲求は

『私』が望んでいることなのだろうか・・・

力を得るために会いたいのだろうか・・・
あの男を手に入れたいために会いたいのだろうか・・・

この欲求は
上位種である自分
魔である自分
どちらの欲求なのだろうか・・・


でも

もう、
それもどうでもいい・・・


明日、私の半身を手に入れる

愛しいラファエル・・・

知らず、口元に笑みが浮かび、恍惚の表情が生まれた。


「・・・待っててね・・・」




posted by ラストエフ at 12:04| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月09日

22:決戦の鍵

満月となる前に、魔物との決着をつける・・・
しかし通常の武器では相手に有効な効果は見込めない・・・
そこでラファエルは、最適な武器がある、と言った。
だがそれは現在手元にはなく、ラファエルの故郷にあるという・・・

ティファは少しずつ夢の中へと誘われながら、夕方の出来事を思い返していた。



「故郷・・・って、沈黙の洞窟のことか?」

アルバートがやや眉をひそめてラファエルに問う。
無理もない。
今3人がいる場所から、ラファエルの故郷である沈黙の洞窟までは相当の距離がある。
徒歩では三日はかかるだろう。
明日必要となる武器が故郷にあるのなら、馬を使って走ったとしても間に合わないだろう。
ティファも不安げにラファエルへ視線をやり、アルバートの言葉に続いた。

「なにかいい方法があるの?誰かに届けてもらうとか?」

ティファの言葉にラファエルは小さく首を横に振る。

「いや、こちらから取りに行く。」

「でも・・・間に合わないだろう!?明日の夜明けには森へ攻め込むんじゃなかったのか?」

現実離れしたラファエルの案にアルバートが返す。
一体どうやって、故郷にあるという武器を受け取るというのか。
しかも一晩のうちに。
そして誰が。

ラファエルはそれでも自信ありげに微笑み、視線をティファの傍らへと移した。
そこには、ティファの横で目を瞑り、組んだ前足に顎を乗せている銀毛の獣、セロの姿があった。

「セロ・・・行ってくれるか」

ラファエルの言葉に、ティファとアルバートが驚いたようにセロを見た。
セロはゆっくりと目を開け、首を持ち上げた。

「・・・らしくないな、マスター・・・いつものように命令すればいい。私はそれに応えるだけだ・・・」

低く唸るように応えるセロの言葉には、不敵な笑みと頼もしい響きが含まれていた。
セロに言われ、ラファエルは可笑しそうに小さく笑ったあと、命じた。

「そうだな・・・ならば、俺の故郷へ行き、武器を取ってきてくれ。」

主人の言葉にすっと立ち上がったセロの姿は、凛々しく力強く感じられた。
セロはそのまま進むと、ラファエルの横を通り過ぎる際に静かに問う。

「・・・明日の夜までに?」

セロの問いにラファエルが応える。

「そうだ・・・頼んだぞ」

「了解した」

セロは小さく返答すると、全身をしならせ、疾風の如く夜の闇へ駆けていった。
後にはセロの銀毛が月の光を鈍く反射させ、帯を残すかのように煌めいていた。



「・・・間に合うのか?」

再び静けさを取り戻し、焚き木の弾ける音がかすかに聞こえる中で、アルバートが小さく呟いた。

「・・・あいつなら、きっとやってくれるさ」

静かな、しかし信頼を含めた声音だった。



いつの間にかティファは眠りに落ちていた。
明日の夜明けには森へ入り、魔物との決着をつける。
月が満ちてしまうその前に・・・

不安要素は少なくない。
満月となることで、前例のない上位種と魔物とが融合した強敵が、どのような影響を受けるのか。
まったく想像がつかない。
しかも相手は、他の同種の魔物を意のままに操れるかのような能力も垣間見せている。
そして、決定打となる武器が手元にない。

そんな不安定な状態のままで、明日、最終決戦が始まる。

ティファは数日続く戦闘の疲れから来る睡魔に抗えず、深い眠りへと落ちていく。
外にはラファエルとアルバートが寝ずの番をしてくれている。
ティファは徐々に薄れる意識の中で、神に祈った。

ラファエルのことを
アルバートのことを
セロのことを

そして
フェリジアに救いがあることを・・・
posted by ラストエフ at 16:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月04日

21:満月の欠片

森の方から何か虫の鳴き声が聞こえる
辺りには闇が落ち、夜の静寂が支配していた。
質素なテントの中から外へ視線をやると、キャンプの炎がうっすらと赤く見える。
外ではアルバートとラファエルが見張りとして火を灯してくれている。
ティファは寝袋に包まりながら、夕方に話していたラファエルの話を思い出していた。


太陽が傾き、足元の影が徐々に長くなってきている頃、ラファエルはあることを思い出したようにティファに尋ねた。

「あの時、最後に貴女が放った矢・・・あれは特別な矢だったのでは?」

あの時・・・フェリジアに追い詰められたラファエルを助けようと、無我夢中で放った矢だ。
確かにあの矢に触れた瞬間、彼女は明らかに怯み、動揺した。

「えぇ、いつもは普通の銀の矢を使ってるんだけど・・・あの時使ったのは、特別な矢で・・・」

ふと、ティファは立ち上がり自分の荷物の中から矢筒を取り出した。
一見すると何の変哲もない矢筒であったが、よく見ると二つに仕切りが施されており、その中に収められている矢は二種類あることがわかった。

矢筒の中を二つに仕切り、二種類の矢を収めている矢筒。
その片方は確かに普通の銀製の矢だった。
しかし、もう片方
そこには銀製の矢と比べて明らかに輝きの違う、わずかに黄金の輝きを纏う矢が収められていた。
しかもその作りは矢尻のみではなく、矢の本体すべてが同じ材料から作られていた。

「それが、特別な矢?たしかに銀の矢とは違うみたいだが・・・」

アルバートが一本を受け取り、まじまじと凝視する。

「そう。これはオリハルコン製。でも貴重なものだから数もそんなにないし、ここぞという時だけしか使えないの。」

それを聞いたラファエルが納得したように感嘆の声を漏らす

「オリハルコン・・・なるほど、銀にも退魔の効果はあるが、オリハルコンならさらに強力な力が見込める。」

「しかも、これ矢ならあの親玉にも効果があるってのも立証済みだしな。」

矢から視線をはずし、不適な笑みを浮かべながらアルバートが続けた。

「じゃあこの矢が、さっき言ってた勝機になるってことか?」

アルバートの言葉にラファエルは心強く肯定する、
かと思われたが、やや眉をひそめた。

「・・・あくまでもこの矢は、奴に対抗しうる手段のひとつであり、ヒントであるわけなんだが・・・それでも倒すには不十分だろう。」

ラファエルの発言にアルバートが怪訝な表情を向ける。
ティファがその後を引き継いだ。

「たしかに・・・この矢だけじゃ数も少ないし、威力もそんなに期待はできないと思う。できて、せいぜいアルバートとラファエルのフォローくらい・・・」

「なら、同じ効果のある武器を俺らも用意すればいいんじゃないか?・・・まぁ、そんな貴重な武器がすぐ用意できるわけでもないだろうが・・・」

今手元にあるのであればいい。
しかし、様々な武器防具が存在する世でそれらを持ち歩くというのは簡単なことではない。
しかもその所望する武器が特別で貴重な物であるほど、その用途に沿った場所でしか使うことは少ない。
まさか今、この場で『特別製』が必要になるとは思わなかった。
そのため誰も、手元に退魔効果に突出した武器を持つ者はこの場にいなかった。

話が進むにつれ、空は朱から紫、そして黒へとその姿を変えていっていた。

重い空気に包まれ、一瞬の沈黙にラファエルがさらに拍車をかける。

「それにおそらく、あまりこれ以上時間はかけていられない・・・」

不吉なラファエルの発言に、アルバートとティファも表情を曇らせる。

「どういうことだ?」

アルバートの問いにラファエルが答える。

「・・・これは確信じゃない。俺の推測だが、奴に対してオリハルコン製の武器が効いた。ということは、奴はすでに上位種ではなく・・・はっきりと『魔物』であると証明したようなものじゃないのか・・・」

ラファエルの声がかすかに震える。
無理もない。
その上位種であるエルフは、彼の妻に当たる人物なのだから。

ラファエルは拳を握り、さらに続ける。

「ということは、もうすぐ奴・・・いや、『魔物』達の力が最大となる夜が近づいてきている」

その話を聞いていた二人のヒューマンが同時に空を仰いだ。
いつの間にか、空は満点の星と、
もうすぐその全身を現すであろう、不完全な満月を見ることができた。

「そうか・・・満月・・・!完全な満月になってしまったら、魔物の力が活性化してしまう!ただでさえ数が多くて厄介だってのに、さらに手こずることになるのか!」

アルバートが満月になりかけている月を見上げ、悔しそうに唸った。

「満月の夜に奴らがどう動くかはわからんが・・・、できればその前に決着をつけたい・・・!」

ラファエルが静かに、しかし強い決意とともに言葉を漏らした。

「でも・・・時間が迫ってきてると言っても・・・武器が・・・」

ティファが不安そうに自分の矢に視線を落とし、小さく呟いた。
ラファエルは口の端を持ち上げるように笑みをこぼすと、ティファの不安を払拭するように声をかけた。

「俺が持つ武器の中で、最適なものがある。それで明日、決着をつけようと思う。ティファの矢がなければ思いつかない上に、間に合わなかっただろう。」

少し驚き、同時に照れくささを感じながらもティファはラファエルを見た。
その表情は優しく、また頼もしくもあった。
しかし
彼の持つ多彩な武器の中に、そのような特別な武器があったのだろうか?
その疑問はアルバートが代弁してくれた。

「オリハルコンに代わるような武器が、手元にあるってことか?」

二人のヒューマンが期待を混じった目をラファエルに向ける。
ヒューマンの世界にはあまり馴染みのない、ダークエルフ特有の武器。
二人ともそれほど詳しくは知らないため、どのような武器があるのか想像もつかない。
しかし、
ラファエルの口からは予想もしない言葉が発せられた。

「いま手元にはない。あるのは、俺の故郷だ。」
posted by ラストエフ at 17:53| Comment(2) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。