2008年05月21日

26:再会の刻

不意に姿を現したのは、紛れもなくかつての最愛の妻であるフェリジアだった。
予想以上に近くまで気配を感じなかったことに驚きを隠せないラファエル。
よくよくその姿を凝視すると、いつものような笑みはやや薄らいでおり、どこか不安定な存在に感じることができた。
満月が近いことによる影響なのか・・・
理由はわからないが、明らかに今までとは何かが違っていた。

フェリジアは、二人のヒューマンと周囲の様子を窺うために二人から数歩離れたラファエルとの間を断つように現れた。
そして二人のヒューマンを包囲するように、他の魔物が森の中からゆっくりと姿を現す。
即座に戦闘態勢に入り、ティファを背後に護るように剣を構えるアルバート。
自身を支配していた疲労感を追いやり、立ち上がって弓に矢を番えるティファ。
そして、最大の敵であるフェリジアと対峙するラファエル。

それぞれが、最後の戦いに身を投じた。



「見つけた・・・」

ゆっくりとラファエルとの距離を縮めながらフェリジアが言った。
これまでと同じように、ラファエルを欲するかのような発言。
しかしその目にはどこか焦りのような、それでいて歓喜を含む複雑な感情を窺うことができた。

「貴様から姿を現すとは・・・好都合だ・・・」

ラファエルは自分でも不思議なほどに落ち着いていた。
二人のヒューマンとの出会いと、共に肩を並べて戦った短い時間の間で、自分の中で何かが変わったのだろうか。
かつては怒りと悲しみに塗りつぶされた黒い殺意だけで戦っていた。
今は、仲間への思いと、妻への想い。
新たな決意が、この場においてのラファエルを少なからず変えていた。

彼らには、最後の賭けがあった。
フェリジアを救うために。
満月が昇れば、彼女を飲み込んだ魔物の性質が力を増すことが予想される。
その時に彼女の身に何が起こるかはわからないが、魔物の力が増大した状態で、『特別製』の武器によっての攻撃を行う。
そうすることで魔物である部分だけを浄化し、彼女を救うことができるのではないか・・・
成功するかどうかは誰にも予測できず、またこの方法で果たして救うことができるのか・・・
しかしそれには最大の鍵が二つ必要となる。
『満月』と『武器』である。
日没までにはまだ時間がある。
そしてセロがまだ到着していない。
二つの鍵がこの場に揃うまで、三人は耐える戦いを余儀なくされる。

アルバートが、位置を分断されたラファエルに視線をやる。
二人の視線がぶつかる。
ラファエルは最初、何とか二人の元へ合流することを考えていた。
しかし、アルバートの目に宿る意志を読み取ったとき、少なからず驚愕した。
彼の、いや、彼らの目は確かに語っていた。

こちらのことは気にするな
自分の戦いに決着をつけろ

と。
ラファエルに応えるかのように、アルバートが不敵な笑みを浮かべる。
そしてティファも同じように強い決意の眼差しを以て気丈に微笑んだ。
彼らの強さを頼もしく思い、またその決意に背中を押されるようにラファエルの心に炎が宿る。
ラファエルもまた力強い決意を宿した視線を二人に送り、それに応えた。

迷いは、ない。

生きて帰る。
4人で。
彼女をこの手にかけ、自身の命も絶つという選択をしたこともあった。
だが、今は違う。
護るべき仲間がいる。
救うべき相手がいる。
倒すことが彼女に対する救いになると思っていた。
違う。
捕らわれている妻の魂を救い出す。
また、同じ時を共に生きるために!



ティファとアルバートはお互いの背中を守り合うように立ち、包囲する魔物達と向き合う。
ラファエルはフェリジアと向き合い、固い決意とともにクロウを両手に装着した。

その姿を見て、微かにフェリジアの表情に笑みが浮かぶ。
彼女の右手から液体のような物が捻出され、徐々に刃物の姿を形作る。

「・・・さぁ、ひとつになりましょう・・・愛しいラファエル」



最後の戦いが

始まる。
posted by ラストエフ at 04:47| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月03日

25:戦慄の刻

「ぉおおらあぁぁぁああ!!」

突如襲ってきた数体の魔物の群
その最後の一匹を気合いとともにアルバートが両断する。
油断なく周囲を見渡し、他に魔物の気配がないことを即座に確認した。

「こっちは片付いたぞ」

愛用の剣に付着した魔物の体液を振り払いながら背後を振り返り、声をかけた。

「ケガはない?」

数歩下がった場所に位置するティファが訪ねる。
問題ない、と応え、ティファを挟んで反対側に立つラファエルに視線を移した。

「こちらも片付いた。特に問題もない。」

ラファエルの足下には肉片と化した魔物の残骸が散らばっている。
彼の身にはかすり傷どころか返り血のひとつも浴びていない。
すでに戦闘態勢を解いたラファエルは、両手に装着していたクロウを腰のベルトに納めながら二人の元へ戻ってきた。

これで数度の魔物の襲撃を受けていた。
その中で自然と三人の中にチームワークが生まれ始める。
ラファエルはもとより、アルバートも腕のたつ騎士である。
何度か共に肩を並べて魔物と戦うにつれ、互いの呼吸を読み取り戦闘を有利に進めることができるようになっていた。
そしてティファはその後方、もしくは二人の中央に位置し、二人を支援するという陣形がいつの間にか整っていた。
アルバートとラファエルは打ち合わせることもなく、これまでの戦闘で自分達の役割を充分に知っていた。
すなわち、ラファエルは剣であり、アルバートはティファを護るための盾である。
そしてそれは、互いがそれぞれを気遣い思い合う、仲間意識へと発展していった。


三人が森に入ってから、すでに半日が経とうとしている。
太陽は頭上を通り過ぎ、日没までの時間が半分を超えたことを物語っていた。
進軍を開始してからここまで、数体の魔物が成す群れにいくつか遭遇し、
他にも単体で行動する、いわゆる「はぐれ」の魔物にも何体か遭遇していた。
それらをことごとく屠り、三人は森の深部を目指していた。
が、さすがに幾度となく繰り返される魔物の襲撃により、その歩みは快調とは言えなかった。
魔物の女王フェリジアが潜むであろう、森の深部にはまだ半分ほどしか進めていないだろう。
薄暗く、湿度の高い森の空気は三人に焦燥感を押しつけ、普段よりも早い疲労感に襲われた。


「・・・くそっ・・・日が傾いてきてやがる!」

悔しげに唸り、額の汗を腕でぬぐいながらアルバートが呟く。
時間は流れる。
当然のことだが、それが今の三人には苦しいほどの重圧となり両肩にのし掛かる。
さきほどより僅かに、しかし確実にその高さを落とす太陽を睨むが、それを嘲笑するように足下の影は徐々に姿を伸ばしていった。

「焦っても仕方がない。こうやって少しずつでも、確実にヤツには近付いているはずだ。」

同じように木々の葉の間から射す太陽の光に目を細めながら、ラファエルが静かに言った。
そしてアルバートに近付き、小声でアルバートに告げる。

「(一度休憩を入れよう。あまり無理はさせたくないだろう。)」

ラファエルはティファの身と、彼女を案ずるアルバートを気遣っていた。

「(あぁ、すまない。俺もそうしようと思っていた。助かる。)」

ラファエルの気遣いに感謝しながらティファを見る。
慣れない前線と環境に、明らかに疲労が表情に浮かんでいる。
本人は気丈にも何気ない態度を装っているが、隠しようがないほどに消耗していた。

「ティファ、この辺で一度休憩しよう。」

「え?あぁ、うん」

休憩するという言葉に安堵したのか、ふーっと長い息を吐き、近くの倒木に腰をかけた。
やはり疲弊は隠せず、額には玉のような汗が滲んでいる。
不慣れながらもよく耐えていたものだと感心する。

アルバートがティファを気遣い、飲み物を与えたり声をかけたりと世話をしている。
それをしばし見守ったあと、ラファエルは周辺の気配を探っていた。
さきほどから奇妙な感覚がまとわりついているように思える。
知らず、警戒してしまう。

何度か遭遇した魔物がいつもと違うような気がする。
アルバートもどこか不自然さを覚えていた。

今日、この森に俳諧する魔物は・・・

全て最深部に生息する型の魔物ではなかったか・・・

今までは、森の外れに出現する魔物達はいずれも大した京井ではなかった。
だが、今は?

森の全域に『最深部にしか出現しないはず』の魔物で溢れている。
これが何を表すのか・・・
なぜ森の全域に徘徊しているのか・・・

上位種の力を取り込んだ女王には、
たしか、
他の魔物を意のままに操るかのような場面を見せた。

まさか・・・


こいつらは、
俺達を探していたのか・・・!!?


自分の考えが最悪の状況を想像させる。

「まずいぞ!油断するな!」

振り返り、二人の仲間に警戒を呼びかけたときだった。

先日感じた、あの感覚・・・
忘れもしない気配・・・

ラファエルの全身に戦慄が走った。
posted by ラストエフ at 03:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

情報屋「いらっしゃい」

(からんからん)


やぁ、いらっしゃい
今日はどんなご用件で?
ケガをしていないところを見ると、治療の依頼じゃなさそうだね
情報が欲しい?
それとも仕事かい?

なんでも言っておくれ


え、紹介?
あぁなるほど、二人から聞いてるよ
とうとう僕のところに来たわけか
そんなに面白い内容でもないだろうけどね
僕でよければ喜んで紹介させてもらうよ

僕の名前は「クリフ」
この酒場の名前の由来でもある、「虹色の風血盟」に所属しているウィザードだ

この店での僕の仕事といえば・・・
まず、冒険者や旅人達と情報のやり取りが主なんだけど、
他にも仕事の紹介や、ケガ人の治療もしているんだ
情報屋とは名乗っているけど、あえて言うならなんでも屋ってところかな
店が忙しい時は妻を手伝ったりもするけどね

あぁ、妻とその友人の紹介はもう聞いてるんだったね
自慢じゃないが妻の料理は絶品だよ
友人が厳選したたくさんの酒もここの名物のひとつかもしれないね
おかげで毎日色んなお客さんが足を運んでくれるよ


妻との馴れ初め?
んん・・・
それは勘弁してくれないかな
さすがに恥ずかしくて他人様にはとても言えないよ
妻にも叱られてしまう
怒ると恐いんだよ


普段の僕かい?
いつも店のカウンターで、お客さんが来るまでのんびりと本を読んでるよ
読書が好きなんだ
色んな情報を与えてくれるからね
開店前には買い出しや店の準備をしているんだけど
いつの間にか時間が過ぎててね
なかなか本を開く時間がないんだ
書庫にはまだ目を通していない本が山ほどあるのに・・・

おっといけない
なんだか愚痴っぽくなってしまったね

まぁ毎日が忙しいけど今の生活に不満はないね
とても幸せだよ

さてと、僕の紹介はこれくらいかな
こんなものでよかった?


そろそろお帰りかい?
長話に付き合わせてすまないね

困ったことがあったらいつでも来ておくれ
きっと力になれると思うから


ありがとう
これからも虹色の風をどうぞご贔屓に



(からんからん)
posted by ラストエフ at 01:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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