2008年07月27日

36:命の光

腹部に熱を帯びた激痛が走る。
自身の血液が衣服をじわじわと赤黒く染めていく。
衣服と皮膚を無理やり突き破った細い指は、肉をえぐってはいるが、重要な臓器には届いていない。
出血も大量のものではない。
致命傷にはなっていない、と判断できた。
まだ戦える。
しかしその苦痛は簡単には拭えるものではない。
すぐ目の前にフェリジアの顔がある。
その美しい表情には狂気と歓喜とが入り混じっている。

どくん

反撃せねば。
腕を持ち上げる。
腹部に突き刺さるフェリジアの腕を掴もうとする。
しかし、持ち上げた右手は武器ごと魔物から生成された粘体に取り込まれている。
武器と手を封印されたも同然だった。
だが、まだ反撃の糸口はあるはずだ。

どくん

致命傷ではない。
そう、致命傷ではないのだ。
しかし。
なんだこの感覚は。
手足が徐々に痺れてきている。
視界が暗く感じるのは、夜の帳が落ちたせいではないのか。
判断力が鈍ってきている。

どくん

手足が重い。
強烈な脱力感が襲ってくる。
なぜだ。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
聴覚もどこかおかしい。
狂気の笑い声を発するフェリジアがいる。
その声すら遠く感じる。

どくん

まだ決着はついていない。
何がそんなに嬉しいんだ。

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

狂ったように、嬉しそうに、フェリジアが勝ち誇って笑う。

「素晴らしいわラファエル!そうよ、これが欲しかったのよ!」

何を言っている。
何を手に入れたというのだ。

どくん

「この力!この光!!この魂!!!あなたの命はやっぱり最高の美酒だった!」

命・・・?
俺はまだ戦える。
声が出ない。
この手を離さなければ。
動け・・・
動け・・・・・・
動いてくれ・・・・・・・・

どくん

「全部頂戴!あなたの全てを私に頂戴!そしてひとつとなりましょう!永遠に!!」

わからない。
何を言っている。
聞こえない。
見えない。
どうした。
俺の身に何が起こった。
何も感じない。
感覚が麻痺している。

どくん

「わかるわ・・・あなたの命が私に流れ込んでくるのが!素晴らしい力よ!これで、私は完成する!!」

・・・そうか。
貴様は・・・
俺の命を・・・
フェリジアだけでは飽き足らず・・・
俺をも取り込もうというのか・・・

「・・・大丈夫、あなたは私の中で永遠に生きるのよ・・・。私の中でひとつになるのよ!」

意識が薄れる・・・
俺は・・・
助けられなかったのか・・・
フェリジア・・・

どくん

すまない・・・
俺は
君を助けられなかった・・・
でも・・・
もう、いい・・・
これ以上その姿が汚されるのは見たくない・・・
ならばいっそ・・・
助けられないのなら・・・

俺がいなくなればいい・・・
そうすれば、君のいるところへ・・・
俺もいけるだろうか・・・


どくん


すまない、フェリジア・・・


瞼が重い・・・


体が重い・・・


暗い・・・



どく、ん




これが・・・・・・・・・・





死、か・・・・・・・・・・・・・・・・







ど、く、








夕日が沈む頃、
森の中に
フェリジアの高い笑い声が響いた。
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2008年07月16日

35:激闘の末

ラファエルの振るう剣がフェリジアの大剣とぶつかり合う。
その都度、フェリジアの剣は削れ、欠け、辺りに飛び散る。
しかしそれはフェリジア自身になんらダメージはなく、武器としての価値がなくなれば周囲に待機する魔物を新たな武器として調達するだけで済む。
アルバート、ティファそしてセロの三者は、それを打破し、ラファエルの剣がフェリジアに届くよう最大の支援をしている。
すなわち、フェリジアが武器として準備した魔物達の数を減らすことである。
が、それがどれほどの効果をもたらすかは分からない。
それでも、何もしないよりも、いや、何もできないからこそ、自分達にできる最大限の行動でラファエルを支援することしかできなかったのだ。

当然フェリジアは自分の状況における弱点を承知している。
自分が勝利するための鍵は、この眷属の魔物達の存在だ。
これがそのまま自分を守る盾であり、またラファエルの武器に対抗するための最大の武器でもある。
邪魔者がそれを妨害してくることも予測している。
そのための手もすでに打ってある。
今この場で警戒すべきは、ラファエルの持つ退魔の剣と、ヒューマンの娘が所有するオリハルコン製の矢だ。
それらを使わせなければ、勝機は見えてくる。
勝機ではない。
絶対なる勝利だ。
私は、負けない。
生きるために。
永遠の命と力を得るために。
もう一つの光を手に入れる。
ラファエルの持つ魂の光を・・・!
もう手に届く。
目の前にある。
眩しく輝く最後の光が。
嬉しい。
嬉しい・・・。
もうすぐ私は完全体となれる。
もっとこうやってラファエルと語り合いたいけど。
もう時間がない。
だから。

終わりにしましょう。



ラファエルの息が上がる。
すでに長時間の戦闘が続いているにもかかわらず、フェリジアの表情には疲労の色は微塵も伺えない。
対してラファエルの体力がすでに限界であることは明白だ。
動きは鈍り、反撃する剣も少なくなり、ただただ襲い来る凶剣を弾き、防御することが精一杯だった。
しかしその闘志は消えることなく、徐々に押されてはいるもののフェリジアの剣を消耗させ、貴重な一瞬の隙に反撃にも転じている。
幾度目かの攻防が途切れ、フェリジアが大きく飛び退る。
そしてまた同じように配下である魔物をなんの感情もなく武器として生成する。
そして変わらず微かな微笑みを浮かべてラファエルに語りかけた。

「よく頑張るわね・・・。でももう限界でしょう?そろそろ、ラクにしてあげる・・・。」

フェリジアの言葉に応えるかのように、両手の大剣がさらに禍々しい形状に変化していく。
鋭さが増し、歪だった刃が明らかな輝きを以て鈍い光を放った。
ラファエルに言葉はない。
答えるほどの体力すら消耗していた。
肩を大きく上下させ、荒い呼吸を繰り返していた。
しかし、それでも眼光は鋭さを保ったままフェリジアを射抜く。
その様子を楽しげに眺めていたフェリジアの、雰囲気が、纏う気が変わる。
微笑みが薄まり、目が細められ、剣がゆらりと左右に広げられる。



来る

ラファエルの意識が急速に一点に集中する。
時間が収束する。
全ての音が、景色が、ラファエルの意識から排除される。
目に映るのは、ただフェリジアの姿のみ。
次の交錯で決まる。
いや、決める。
全ての力をこの一瞬に賭ける。
そしてこの剣を、届かせてみせる。

一瞬だった。
ラファエルが荒れる息を無理矢理抑え込み、ひとつ呼吸をする時には、フェリジアの疾走が始まっていた。
低く地を滑るように距離を詰めたフェリジアは、右手の大剣を大きく振り下ろした。
ラファエルの瞳孔が収縮する。
最大にまで集中したラファエルは、限界を超えた自身の身体が、その限界をも超えたことを実感する間もない。
目にも止まらぬ速さで襲い来る凶刃に対し、ラファエルは同じく右の逆手に持った剣で迎え撃つ。
身体を相手の刃の外に避けながら剣を繰り出す。
最高速で迎え撃ったラファエルの剣は、フェリジアの剣を中ほどで両断する。
しかし次の瞬間にはすでにフェリジアの左手の剣による斬撃が襲いかかっている。
ラファエルはその右手を戻すと同時に左順手の剣でそれをも打ち落とす。
そして最後に交差された双剣によって最大の一撃を放つ。

はずだった。

ラファエルの迎撃は、フェリジアの最初の一撃を見事に迎え撃った。
そして第二撃を迎え撃つ行動に出ようとした瞬間、その動きが止められていた。
両断したはずのフェリジアの剣は、即座にその姿を形のない粘体へと変化させ、ラファエルが振り抜いた右手にまとわりつきその動きを拘束した。
そして直後に繰り出されたフェリジアの左手の剣は、同じく剣の姿から粘体へと変化し、それでも反撃に転じようとしたラファエルの左手を拘束する。
ラファエルの両手を拘束したそれは、徐々に双剣を飲み込み完全にその威力を無効化した。
ラファエルの表情に驚愕の色が浮かぶ前に、フェリジアは勢いを殺さぬままにラファエルの腹に蹴りを放つ。
その衝撃で後方へと飛ばされるラファエル。
同時にフェリジアの手から、粘体と化した拘束具がずるりと抜ける。
ラファエルは両手を剣ごと粘体に飲み込まれたまま、背中を大木に打ち付け、ずるずるとその場に崩れ落ちる。

歪む表情で顔を上げると、すぐ目の前にフェリジアの顔があった。
そこに浮かぶ表情は、歓喜。
恍惚とした歓喜の表情。
そして、腹部に突き刺さる熱い感覚。
腹部に感じる灼けるような熱が、滴り落ちる自身の血液によるものであることが理解できるまで、数秒かかった。
息がかかりそうなほどに近づき、ラファエルの前に膝をついたフェリジアがそこにはいた。
その両手は先程まであった巨大な剣ではなく、生身の美しく華奢な手だった。

左手でラファエルの頬をそっと撫でていた。
そして右手は。

五指が、ラファエルの腹部に深々と突き刺さっていた。



posted by ラストエフ at 02:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月04日

34:女王の聖戦

「なに・・・?あれ・・・。」

フェリジアの姿を目にしたとき、ティファは思わず小さく呟いていた。
ラファエルとフェリジアとが激しく剣をぶつけ合う死闘の場。
駆けつけたティファ、アルバート、そしてセロは木々の間からその行方を見守る。
魔物の女王であるフェリジアは、上位種の神々しい姿であるにもかかわらず、両手はそれに似つかぬあまりにも禍々しい巨大な剣と化していた。
三者が見守る前で、二人は幾度となく激しい攻防を繰り広げている。
ラファエルは退魔の2剣を、フェリジアは両手に同化しているかのような巨大な2剣を、それぞれ振るっていた。
二人の攻防は続く。
そこで、ある事に気付く。
フェリジアは一体いつ、どうやって、ラファエルの剣に対抗できるほどの、あの巨大な剣を手にできたのか。
その答えは間もなく、目の前で公開されることとなった。

フェリジアが左右の剣を流れるような動きで次々と繰り出す。
ラファエルはそれを交わし、避け、打ち払い、一瞬の隙を見逃さずに反撃に転じていた。
それが繰り返されるにつれ、フェリジアの持つ巨大な剣は徐々にその大きさを縮めていることに気が付く。
厳密には、ラファエルの剣との接触によって削れ、欠け、砕けていっていたのだ。
辺りに飛び散ったフェリジアの剣の欠片は、地面に落ち、しゅうしゅうという音と煙を立てながら蒸発していった。
やがてその剣が元の半分ほどの大きさほどになった頃、フェリジアは大きく振りかぶり、渾身の力でラファエルを弾き飛ばす。
同時に後ろへ飛び退り、距離を取った。
やや離れてその死闘を見守っていた三者は、そこで二人の周囲に立ち並ぶ夥しい数の魔物の姿を視認する。
魔物達は動くでもなくラファエルに襲いかかるでもなく、ただそこで背景の一部であるかのように立ちすくんでいた。
フェリジアは置物のように立つ魔物のうち、2体の魔物の間に降り立つと、視線を移すこともなく左右の手をそれぞれの魔物の脇腹辺りに突き刺した。
女王の手によって身体を貫かれた魔物は、抵抗することもなく為されるがままに立っていた。
そしてたちまちの内に、その姿は本来の姿である、形なき形の粘体へと変貌しいった。
そしてフェリジアの手には、先程振るっていた物と同じ歪で禍々しい巨大な剣が現れていた。

「そういうことか・・・!支配下の魔物を自分の武器として使うために残しておいたってことかよ!」

魔物達の不可解な行動と、女王の意図、それら全てが一つの答えに行き着いた。
アルバートは呻るように喉の奥から声を絞り出した。
セロが命を賭けてこの場に届けた退魔の剣の威力は、フェリジアにとっても驚異となりうるはずだった。
しかしフェリジアはそれに対抗するための策をすでに準備していた。
それこそがこの魔物達であり、それはラファエルの攻撃を無効化させるための武器であり、フェリジアを守るための消耗品でしかなかったのだ。
ラファエルの剣は確かに魔物に対して効果がある。
そのことは剣と化し、フェリジアに振るわれている状態となっても威力が変わることがないことで証明されている。
しかし、二人の周囲には未だ夥しいまでの魔物が待機している。
いや、準備されていると言ってもいいだろう。
それはつまり、フェリジアに退魔の剣が届くまでの距離とも言える。
この状態が続くのであれば、明らかにラファエルの体力と気力が尽きるのは目に見えている。

「・・・ねぇ、ラファエルの手助け、できないかな・・・?」

何もできないことを知りつつも、歯がゆく、また焦燥を抱いているティファがアルバートに視線をやる。
アルバートも同じ思いだ。
しかし。

「・・・あの二人の戦いに割って入ったところで、俺達じゃラファエルの足手まといになるだけだ・・・。」

力の差が明らかであることは充分に承知している。
ここにいる三人の力は、あの二人には遠く及ばない。
悔しそうに呟き、木に拳を打ち付けた。
しかし、何かできるはずだ。
直接手助けすることができなくとも。
そこで気付いたのは、フェリジアの剣、そして周囲に立ち並ぶ魔物。
フェリジアの武器を消耗させることならできる。

「俺達にできることがあったな・・・。」

顔を上げ、鋭く周囲を見渡しながらアルバートが呟く。
アルバートが何を言わんとしているのか、ティファとセロも気付いていた。
魔物達との距離はあるものの、ただ立ち尽くすだけの魔物がフェリジアにとっての武器となるのなら。
ならばその数を減らし、少しでもラファエルの武器がフェリジアに届くようにするだけだ。
三者は顔を見合わせ、それぞれの意思を確認するように頷いた。

フェリジアはすでに気付いている。
邪魔者がまたこの聖戦を汚そうをしていることを。
狙いもわかっている。
我が配下となっている魔物たちを削っていこうというのだろう。
そうはさせない。
邪魔はさせない。
もう少しで手に入るのだから。
知らず、フェリジアの口元にうっすらと笑みが浮かんだ。

三者が行動に移すと同時に、魔物達にも動きがあった。
ラファエルとフェリジアを取り囲む魔物のうちの何割かが、こちらに向かってのろのろと歩き出したのだ。
三者の思い至った結論は既に読まれていたのだ。
無理もない。
残る魔物達は今や、フェリジアにとっての命綱であるとも言える。
読まれていたというより、ごく自然なことであり、それは予め準備されていたこととも言えよう。

「おとなしく見てろってことか・・・。だが、黙って見てるわけにもいかないんでな!」

剣を握り直し、アルバートが荒く吐き捨てる。
ティファ、セロも再び周囲を包囲する魔物に対して構えをとる。
この場にいる全員の闘気が膨らむことを感じる。
誰ともなく、薄々と気付いていた。
この死闘の決着が近いことを。
死力を尽くすときが来たことを。
森は薄暗い空気を更に淀ませている。
太陽が徐々にその姿を隠していく。

日没まで、あと僅かとなっていた。
posted by ラストエフ at 04:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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