2008年09月24日

39:神の力

アルバート、ティファ、セロがフェリジアに対し戦闘の意思を決意する。
それを読み取ったのか、フェリジアは顔だけを三者に向け、どこか優しげな、しかしうっすらとした冷たさを含む微笑みを浮かべる。
体勢は変わらず、ラファエルにひっそりと付き添うように。
そしてその右手はラファエルの腹部にめり込ませたまま。

「今の私はとても気分がいいの。本当なら、お前達も私の眷属達も、もういらないんだけど・・・特別に残しておいてあげるわ。この世に産まれた新たな神の誕生をその目にしっかりと焼き付けておくといいわ。・・・最期に・・・ね。」

フェリジアは聞く者の意識を凍て付かせるかのような言葉を紡ぎ、嬉しそうに目を細める。
そう、彼らはフェリジアの気まぐれで今生きているのだ。
そして彼らだけではなく、支配している眷属である魔物達すら、もう必要ない。
それほど、力を手に入れ完成されたフェリジアは、正に神とも呼べるほどの存在となっていた。

アルバート、ティファ、セロの周囲には未だ魔物達がぐるりと包囲している。
しかしどれもがまるで抜け殻のように立っているだけで、襲いかかってくる様子どころか動き出す気配すらない。
それもただフェリジアが気まぐれに命令を下していないだけであろうが。
それを数少ない勝機のひとつとして、三者はフェリジアに対し攻撃を決意する。

「・・・ここからでもわかる。今のヤツは、凄まじいほどの力が溢れている・・・。」

剣を構えながら呟いたアルバートの額には、うっすらと冷たい汗が滲み頬を伝う。

「・・・あれが、完全体というものなのか。・・・自らを神と名乗るのも頷ける。」

それに続き、全身の毛を逆立てたセロが呻るように、食い縛る歯の隙間から言葉を漏らす。

「・・・空気に、圧力に押しつぶされそう・・・。」

ごくりと喉を動かし、震える体を必死に抑えつけながらティファがやっと言葉を発することができた。
神を相手に、ただのヒューマンである自分に何ができるというのだろうか。
あの力を目の前にすると、先程の決意が簡単に吹き飛んでしまいそうになる。
ティファは目を瞑り大きく息を吸い、何度か深呼吸を繰り返した。

少しだけ、冷静さを取り戻す。
目を薄く開ける。
現状を確認する。
周囲に視線を移す。
魔物達は襲って来ない。
こちらの戦力は、アルバートの剣、セロのスピード、そして自分の持つオリハルコンの矢。
相手との距離はおよそ20歩。
相手はラファエルと密着した状態で座っている。
更には、右手がラファエルの腹部に刺されたままの状態。

ならば、例え相手の速さがいかほどであろうと。
同時に三種の攻撃ならば、捌くにしても手こずるのではなかろうか。
しかし、最後に鍵を握るのは、オリハルコンの矢による攻撃。
これがもし、今のフェリジアにとって効果が無くなっていたら・・・。
これこそが最高の効果を発揮するはずだったこの矢は、神に対して有効なのだろうか。

だが、やらなければ、そこで全てが終わってしまう。
ティファは固い決意とともに、二人に言葉をかけた。

「・・・三人で、同時に攻撃するのはどうかな。」

アルバートとセロがちらり、とティファに視線をやる。

「まぁ、がむしゃらにやるようだが、それくらいしかできないかもな。」

苦笑しながらアルバートが漏らす。

「・・・無闇に突っ込むだけの考えではないのだろう・・・ティファ殿、何か作戦が・・・?」

セロが問い、ティファは苦悩しながらもしっかりと頷く。
その表情からは、どこか苦渋の色が伺えた。



アルバートは速さを重視し、作戦遂行のために鎧を外して軽量化を図った。
すでに上半身は軽微な服装だけとなり、ほぼ無防備といっていいほどの状態となる。
ティファはオリハルコンの矢を地面に数本突き立て、連続で矢を放てるように準備をしていた。
そしてセロはゆっくりとした呼吸を繰り返し、心を落ち着かせ一瞬のために集中している。
アルバートが腰を落として剣を下段に構える。
ティファが矢を番え、いつでも放てるように構える。
セロも全身の筋肉を隆起させ、自身を閃光と化すために地面に爪を突きたてた。

ティファの最初の矢が放たれ、アルバートが疾走した。
おそらくフェリジアはオリハルコンの矢を、避けるか防ぐかの行動を取るであろう。
そこに時間差を置いたアルバートが奇襲をかける。
さらにもう一呼吸おいてセロが追加の攻撃を仕掛ける。
まず優先して狙うべきは、フェリジアをラファエルから引き剥がすこと。

最初の矢は、いとも容易く避けられる。
そこへアルバートの背後から、アルバートを追い越して頬を掠めるようにもう一本の矢が放たれている。
仲間の背後からほぼ直線上にある敵に向けてやを放つには相当の集中力が必要なはずだ。
それをティファは実行し、またアルバートも背後からの矢を恐れることなく、ティファを信頼し、ただ一直線にフェリジアに向けて疾走した。
アルバートは自身の持てる最高の速度でフェリジアに肉薄する。
まるで時が止まったかのように錯覚する集中した一瞬の中で、自分の目を疑うことになる。
自分を追い越しフェリジアに放たれた二本目の矢は、間違いなく命中する軌道だった。
しかし、フェリジアはそのオリハルコンの矢を、左手であっさりと掴み取った。
アルバートの、一瞬の驚愕。
しかしそこで勢いを止めることはない。
最高の速度を保ったまま、フェリジアの肩辺りを狙い、剣を振り切った。

アルバートは、自分の攻撃が命中すると確信する。
しかし、またもや彼は信じられぬ事象を体感することになる。
正に命中するという刹那、剣の軌道が何かの力によって変えられる。
剣は大きくフェリジアを外れ、そのまま彼女の背後へと流れ、アルバートもまた勢いを保ったまま横を通り過ぎた。
そしてそれを追うかのように、閃光となったセロが波状攻撃を仕掛ける。
更に、セロの攻撃と軌道の違う矢による追撃が二本続く。
絶対に避けられない。
体勢を立て直しながら振り返るアルバートと、フェリジアの目の前に迫ったセロと、次の矢を番えるティファも、そう確信した。
その現実が眼前に迫っているにも関わらず、フェリジアの口元には冷たい笑みが浮かんでいた。

三者の確信は、無残にも全て打ち砕かれ、打ち落とされる。
セロと二本の矢は、見えない力によって横から叩きつけられ、地面に落下した。
凄まじい力で地面に叩きつけられるセロ。
放たれた矢も大きく弾かれ地面に落下する。
三者に驚愕の表情が浮かぶ。
そしてそれは大きな絶望へと塗り替えられた。
フェリジアを取り巻く力。
それは、上位種であるエルフの力。
フェリジアの本来持っていた風の精霊の力だった。

フェリジアは掴み取った最初の矢を、ぽきりと折り、相手を凍てつかせるような笑みを浮かべる。
オリハルコンの矢による威力も無効となり、更に新しい力として風を操る能力すら手に入れたフェリジア。
完全体となったフェリジアに対し、勝率は無くなった。

ごうごうと音を立ててフェリジアとラファエルを取り巻く竜巻のような風。
その中心で、フェリジアの高らかな笑い声が木霊する。

膝をつき、絶望に打ちひしがれるアルバート。
よろよろと体を起き上がらせるも、最後の力を振り絞ったため、すでに戦える状態ではないセロ。
その場で力なく座り込み、矢を構えることすら諦めてしまったティファ。

アルバートと、ティファと、セロの、敗北が決定した。
それは、三者が避けられぬ死を、それぞれ悟った瞬間でもあった。


posted by ラストエフ at 04:06| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月20日

虹色の風 外伝

【虹色の風血盟サイドストーリー】

―――――――――――――――――――――――――――
《最前線》

大きく広がる大地に、二つの軍勢がぶつからんとしている。
ひとつは黒一色に染まるラスタバドの軍。
もうひとつは色とりどりの鎧に身を固めたヒューマンの連合軍。
ラスタバド軍との戦闘は、佳境に差し掛かっていた。

ロウ「うっははは、いくぜぇぇぇ!俺達で突破口を開いてやろうぜ!ユウ!!」

巨大な戦斧を肩に担いだロウが隣にいる相棒に声をかける。

ユウ「やれやれ、元気だなお前は。今日は突っ込みすぎて囲まれるようなことはしないでくれよ。」

やや呆れたようにそれに応えるユウ。
しかしその二人の息はぴったりと合っており、特攻隊長の名に恥じぬ戦果を充分に残すこととなる。

―――――――――――――――――――――――――――
《戦場の一角》

ラスタバド軍との戦闘が続く。
結託したヒューマンの軍の力は大きく上回り、もはや勝利は目前に迫っている。
そんな中、数人の配下を残して善戦するラスタバドの一群があり、その指揮を取る男がいた。

タイラス「血盟主、ブルザーグ殿とお見受けする。」
ブルザーグ「いかにも。」
タイラス「我が軍の敗北は既に目に見えている。しかし、俺にも武人としての誇りと軍の将としての責がある。」

顔半分を隠すマスクを取り、男が続ける。

タイラス「我が名はタイラス。貴公に決闘を申し込む。」

傍らに数人の仲間を連れるブルザーグに対し、タイラスが正統なる決闘を申し込んだ。

ブルザーグ「受けて立とう。ロンド、シウシリス、ゾディ、一切の手出しは無用だ。」

決闘を受け入れ、仲間達に手出ししないように命ずる。

ロンド「わかりましたよ、言い出したらきかないんだから。」

ロンドと呼ばれたエルフが溜め息交じりに応える。

シウシリス「見届けましょう。例え何があろうとも、誰にも手出しはさせません。」

続いてシウシリスと呼ばれたウィザードもそれに応える。

ゾディ「どうか、お気をつけて・・・。」

やや不安げにゾディと呼ばれた若いナイトが最後に続いた。
ブルザーグは剣を一振りし、数歩前に出てタイラスと向き合う。

タイラス「ひとつだけ、頼みがある。」
ブルザーグ「なんだ?」
タイラス「この勝敗がどうであっても、残った我が配下は見逃してくれないか。」

タイラスはブルザーグにだけ聞こえるように言った。
その背後には心配そうに決闘の行方を見守るラスタバドの兵士達。
みな一様に傷付き、とても戦闘を続けることができる状態ではない。

ブルザーグ「約束しよう。」

強い意志を持った眼差しでタイラスに応えた。

タイラス「・・・感謝する。・・・行くぞ!」

ふたつの軍の兵士が見守る中、二人の決闘が始まる。
剣と剣がぶつかる音が響き、火花を散らした。

―――――――――――――――――――――――――――
《襲撃された村》

炎上する村。
道に倒れる人々の姿。
少年は傷ついた体を引きずりながら、それでも剣を離すことなく必死に生きようとしていた。

サーウェル「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

やっとの思いで敵の兵士から逃げ延び、炎上する故郷を前に少年はとうとう生きる気力を失いつつあった。

サーウェル「父さん・・・母さん・・・みんな・・・!」

動く者がいなくなった村。
家々を焼く炎はごうごうと音を立てて盛り続けていた。
膝をつく少年の背後に、人の気配が近づく。
決死の覚悟で剣を持ち直し、背後を振り向くと二人の人物が立っていた。
一人は鎧を身に纏い、無精髭を生やした初老の男。
もう一人も似たような年齢だが、ローブを着ており落ち着いた雰囲気をかもし出していた。
二人とも同様に悲しそうな表情を浮かべて。

アーレィ「安心しなさい。我々は敵ではない。この辺りのラスタバド軍は全て撤退した。」

ローブの男が優しく声をかける。

ランディ「・・・すまない、我々がもう少し早く来ていればこんなことには・・・」

鎧の男が悔しそうに、申し訳なさそうに拳を強く握りしめながら言った。
少年は重なる疲労と安心感からか、徐々に意識が薄れその場に倒れてしまった。

―――――――――――――――――――――――――――
《エルフの森》

一人の女性が倒れていた。
そこへ近づく人影。

ミーツ「気配を感じて来てみれば・・・なぜこんなところにダークエルフが?」

ミーツは倒れているダークエルフの側に片膝をついた。
全身に怪我をしており、意識を失っている。

アクア「あれ?ミーツじゃない、どうしたの?」

偶然通りかかったエルフの女性がミーツに声をかける。

ミーツ「ああ、アクアいいところへ。手を貸してくれないか。」


《ギラン》

全身の痛みに目が覚める。
うっすらと瞼を持ち上げると、そこは見慣れぬ部屋の中でベッドに横たわっていた。

サーシャ「・・・ぅ・・・」

起き上がろうとするが、体が思うように動かない。

アクア「あ、気がついた?無理に動かないほうがいいわ。」

横から顔を覗きこんできたのは、エルフの女性。
ここはどこだろう。
自分はなぜここにいるのだろう。

サーシャ「・・・ここは・・・?」
アクア「ギランの宿屋よ。ちょっと待っててね、今お水持ってくるから。」

そういうと、その女性はぱたぱたと台所へと向かった。
ちょうどその時、扉が開き一人のエルフの男性が部屋へ入ってきた。

ミーツ「やあ、目が覚めたのか。気分はどうだい?」

黒い服に短髪のエルフは優しい笑みを浮かべてベッドの横に腰掛けた。

サーシャ「・・・・・・」

ゆっくりと体を起こし、周りを見回す。

ミーツ「私の名はミーツ。そして彼女は・・・」
アクア「アクアよ、よろしくね。」

ミーツが名乗り、その後を引き継いで水を持ってきたアクアも名乗る。
水を受け取り、喉に流し込んだことで少し落ち着くことができた。

アクア「あなたの名前は?」

一息ついたところで、アクアから訊ねられた。
まだ頭がすっきりしていない。

サーシャ「・・・サーシャ・・・」

やっとのことで名乗ることができた。

ミーツ「サーシャ、なぜ君はエルフの森で倒れていたんだ?しかもそんなに怪我をして。」

改めてサーシャが自分の体に視線を移すと、言われた通り全身に怪我をしており、包帯が巻かれていた。
考えてみる。
が、何も思い出せない。
急に恐怖と不安が襲い掛かってくる。

サーシャ「わ、から・・・ない・・・」

頭を抱え、何かにおびえるように震えだした。

サーシャ「思い出せない・・・!」
ミーツ「まさか・・・」
アクア「記憶が・・・?」

ミーツとアクアが驚いた表情で顔を見合わせる。
サーシャはまるで小動物のように、恐怖と不安で顔を青ざめ、小さく震えていた。

―――――――――――――――――――――――――――
《砂漠》

若いエルフが弓を持ち、砂漠の真ん中を駆けている。
全身の至るところに刀傷や矢傷があり、血が滲んでいる。

キリー「くそっ!なんなんだよあいつら!問答無用で襲いかかってきやがって!」

砂に足を取られながらも必死で走り続け、やがてようやく木々が立ち並ぶ森が見えてくる。
木に背を預け、切れた息を整えるようにずるずると座りこんだ。

キリー「あれが、今地上に攻め込んできているラスタバドってヤツらか。・・・こんなことなら、エルフの森でおとなしくしてりゃよかった。」

森で生を受けた彼にとって木々のざわめきと緑の香りは落ち着くものだったが、どうしても後悔の念が拭いきれない。
見慣れない森ではあったが、彼に安心感を与えるには充分であった。
しかし、その安堵も黒い鎧を着たラスタバドの兵士に見つかったことで打ち砕かれる。

キリー「こんなところにまでいるのかよ・・・もう、矢が少ない・・・」

疲労と経験の無さが、彼を窮地に追い詰める。
ラスタバドの兵士は無言で、無慈悲に、無表情のままキリーに近づき、剣を振り上げる。

キリー(あぁ・・・ここで終わるのか・・・)

死を覚悟し、目を瞑った。
しかしいつまでたっても剣が振り下ろされない。
目を開けて見上げると、ラスタバドの兵士は剣を振り上げたまま驚愕の表情で固まっていた。
振り上げた剣を持つ腕が細かく震えている。

フェーン「そこまでだ。」

ラスタバドの兵士の背後から、低い声を伴って一人のウィザードが姿を現す。
どうやら彼の魔法によって体を拘束されたらしい。
そして動けなくなった兵士の首筋に横から剣の切っ先があてがわれる。

レイン「ここから去りなさい。今なら見逃してあげるわ。」

剣の持ち主は女性のナイトだった。
鋭い目つきでラスタバドの兵士を睨み、静かに言い放った。
直後、動けるようになった兵士は言葉も無くその場を一目散に去っていった。

フェーン「大丈夫か?一人でいたら危ねーぞ。」

人懐っこい笑顔で男が声をかけてくる。

レイン「あら、エルフだったのね。怪我は大丈夫?」

剣を収めながらナイトの女性が優しく微笑んだ。

キリー「あ・・・ありがとう。」

やっと応えた礼の一言を最後に、キリーは深い眠りへと落ちていった。

―――――――――――――――――――――――――――

posted by ラストエフ at 10:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説3 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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