2008年06月16日

31:希望の光

セロを包囲していた魔物達の、最後の一体が地面に伏す。
その魔物の腹の辺りには剣による斬り口が刻まれており、そこからじゅうじゅうと音を立てながら湯気のようなものが立ち昇っている。
周囲を見渡すと、数十体にも及ぶ魔物の死体が積み重なるように倒れている。
自分を狙っていた魔物を全て屠ったことを確認すると、セロは咥えていた剣をなんとか背中の鞘に収めた。
体中が悲鳴を上げている。
銀色の毛並みは血に染まり、そこかしこに切り傷があった。
一歩足を踏み出すごとに激痛が走る。
口元からも血が滴り落ちる。
このまま倒れこんで眠りに落ちたいという欲求に駆られる。
だが、使命を背負っている。
すぐそこで大きな闘気がぶつかり合っているのがわかる。
もうすぐ使命を果たせる。
主にこの武器を渡すことができる。
体中の激痛を無視して再び歩きだす。
視界が回る。
体がふらつく。
満身創痍のセロは赤い痕跡を残しながら森の奥を目指した。

しばらくして、再度魔物の群れを発見する。
しかしそれらはセロに気づいておらず、みな一様に背中を向けている。
この魔物達の陣形は・・・
先ほど自分に向けられていたものと変わらない。
つまり・・・
この向こうに誰かが包囲されている?
セロは魔物達が敵意を向けている方向、つまり魔物の包囲網の中心の気配を探った。
気配はふたつ。
主であるラファエルのものではない。
これは、すでに仲間として意識を持っている二人の優しきヒューマンの気配だ。
セロの感情に若干の喜びが芽生える。
無事だった。
今の状況が決して喜べる状態ではないことはわかっている。
しかし、久しく忘れていた喜びの感情に、セロの闘志が蘇ってくる。
セロは自分の体のことも構うことなく剣を抜き放ち、今まさに二人に遅いかかろうとしている魔物のの群れに、包囲網を飛び越えてその中心に飛び込んだ。


二人のヒューマンは自分の姿を見て、喜びの声と同時に心配そうな表情を見せる。
自分達も窮地に陥っているというのに。
ティファ、あなたのその優しさは全てを包み込む。
その中に強い意志を併せ持っている。
アルバート、表には出さないがティファを護ろうとするあなたの姿勢は尊く、尊敬に値する。
二人とも素晴らしい方だ。
出会えてよかった。
口には出さないが、マスターもそう思っている。

セロは二人の無事を確認すると、すぐに戻ることを約束しラファエルの元へと向かった。



クロウと剣がぶつかり合い、離れる。
ラファエルとフェリジアとの死闘は変わらず続いていた。

「ふふふ、楽しいわね、ラファエル」

口元には笑みを浮かべてはいるが、その眼光は鋭くまっすぐにラファエルを見据えながらフェリジアが語りかける。

「・・・黙れ。俺の中にいるのは貴様ではない・・・!」

かつてのような殺意に塗りつぶされることなく、しかし怒りを込めてラファエルが答える。

「同じことよ・・・。私は私。それ以外の何者でもない。」

遠くを見つめるように呟くフェリジア。
自分の発言に何を思うのか探ることはできない。

「違う!貴様は、フェリジアではない・・・!フェリジアの中に巣食う魔を倒して、救い出してみせる!」

歯を食いしばり、かつて最愛の妻であった姿を持つ魔物を睨む。
その中から出ていけ。
フェリジアを返せ。
『鍵』が届けば、希望の光も見えてくる!

ラファエルの抱く希望に気づいているのか、フェリジアは可笑しそうに笑いながらさらに話す。

「ふふ・・・バカなラファエル。ヒューマンの浅知恵に踊らされたの?一つのグラスに注がれた二種類のワインを、どうやって分けるというの?無駄よ・・・。この体は私のもの。この姿も私のもの。あとは貴方というワインを私のグラスに注げば、完成するのよ。諦めて、私と一緒になりなさいな・・・。」

ラファエルの中に、ぽつん、と絶望という名の色が滲む。
それは水に落とされた絵の具のように、じわじわとその色を広げ始める。
希望が絶望へと塗り替えられそうになる。
悲しみが、後悔が、懺悔がラファエルの中に渦巻く。
意識が狭まり、フェリジアの姿すらも薄れていく感覚に襲われる。

そのため、ラファエルは背後に近づいた気配を察知するのが遅れた。
すぐ近くにひとつの気配がある。
ヒューマンのものではない。
すぐ横まで来たその者にゆっくりと視線を移す。

「待たせてしまったな、マスター」

ラファエルを見上げ、気高きハイウルフは誇りを持って口元に笑みを浮かべた。

「セロ・・・!」

その背中には十字の形の鞘に収められた二本一対の剣。
知らず、ラファエルの口元にも笑みが浮かぶ。

「よく、やってくれた・・・!」

セロは、当然だと言いたげに口の端を上げた。
ラファエルはクロウを納め、セロからデュアルブレードを受け取る。
この場に、一つ目の『鍵』が現れたのだ。
ラファエルが二本の剣を鞘から抜き、それぞれを両手に持つ。
退魔の力を有するその剣は、銀色に輝きながらも、その刀身はうっすらと黄金の輝きをも併せ持っていた。
神の祝福を授かったと言われる、銀製のデュアルブレード。
ラファエルの言っていた特別製の武器とは、間違いなくこれのことだった。

「ご苦労だった、セロ。あとは、二人の力になってやってくれ。」

言葉では言い尽くせぬほどの感謝を込めて、優しい表情と笑みでセロを労った。

「了解した。」

セロは達成感と主からの労いの言葉だけで充分満足だった。
そして絶大なる信頼を寄せるラファエルの言葉に従い、背を向けると二人のヒューマンの所へと戻っていった。

そうだ、諦めることはできない。
自分に力を貸してくれた者がいる。
自分のために故郷まで走ってくれた者がいる。
最後まで諦めない。

ラファエルの中に渦巻いていた絶望感は次第に薄れ、再び燃え上がった闘志ととももに、希望が立ち上がる。

「・・・行くぞ・・・!」

剣を構え直し、ラファエルはフェリジアと対峙した。
posted by ラストエフ at 15:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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