2008年07月04日

34:女王の聖戦

「なに・・・?あれ・・・。」

フェリジアの姿を目にしたとき、ティファは思わず小さく呟いていた。
ラファエルとフェリジアとが激しく剣をぶつけ合う死闘の場。
駆けつけたティファ、アルバート、そしてセロは木々の間からその行方を見守る。
魔物の女王であるフェリジアは、上位種の神々しい姿であるにもかかわらず、両手はそれに似つかぬあまりにも禍々しい巨大な剣と化していた。
三者が見守る前で、二人は幾度となく激しい攻防を繰り広げている。
ラファエルは退魔の2剣を、フェリジアは両手に同化しているかのような巨大な2剣を、それぞれ振るっていた。
二人の攻防は続く。
そこで、ある事に気付く。
フェリジアは一体いつ、どうやって、ラファエルの剣に対抗できるほどの、あの巨大な剣を手にできたのか。
その答えは間もなく、目の前で公開されることとなった。

フェリジアが左右の剣を流れるような動きで次々と繰り出す。
ラファエルはそれを交わし、避け、打ち払い、一瞬の隙を見逃さずに反撃に転じていた。
それが繰り返されるにつれ、フェリジアの持つ巨大な剣は徐々にその大きさを縮めていることに気が付く。
厳密には、ラファエルの剣との接触によって削れ、欠け、砕けていっていたのだ。
辺りに飛び散ったフェリジアの剣の欠片は、地面に落ち、しゅうしゅうという音と煙を立てながら蒸発していった。
やがてその剣が元の半分ほどの大きさほどになった頃、フェリジアは大きく振りかぶり、渾身の力でラファエルを弾き飛ばす。
同時に後ろへ飛び退り、距離を取った。
やや離れてその死闘を見守っていた三者は、そこで二人の周囲に立ち並ぶ夥しい数の魔物の姿を視認する。
魔物達は動くでもなくラファエルに襲いかかるでもなく、ただそこで背景の一部であるかのように立ちすくんでいた。
フェリジアは置物のように立つ魔物のうち、2体の魔物の間に降り立つと、視線を移すこともなく左右の手をそれぞれの魔物の脇腹辺りに突き刺した。
女王の手によって身体を貫かれた魔物は、抵抗することもなく為されるがままに立っていた。
そしてたちまちの内に、その姿は本来の姿である、形なき形の粘体へと変貌しいった。
そしてフェリジアの手には、先程振るっていた物と同じ歪で禍々しい巨大な剣が現れていた。

「そういうことか・・・!支配下の魔物を自分の武器として使うために残しておいたってことかよ!」

魔物達の不可解な行動と、女王の意図、それら全てが一つの答えに行き着いた。
アルバートは呻るように喉の奥から声を絞り出した。
セロが命を賭けてこの場に届けた退魔の剣の威力は、フェリジアにとっても驚異となりうるはずだった。
しかしフェリジアはそれに対抗するための策をすでに準備していた。
それこそがこの魔物達であり、それはラファエルの攻撃を無効化させるための武器であり、フェリジアを守るための消耗品でしかなかったのだ。
ラファエルの剣は確かに魔物に対して効果がある。
そのことは剣と化し、フェリジアに振るわれている状態となっても威力が変わることがないことで証明されている。
しかし、二人の周囲には未だ夥しいまでの魔物が待機している。
いや、準備されていると言ってもいいだろう。
それはつまり、フェリジアに退魔の剣が届くまでの距離とも言える。
この状態が続くのであれば、明らかにラファエルの体力と気力が尽きるのは目に見えている。

「・・・ねぇ、ラファエルの手助け、できないかな・・・?」

何もできないことを知りつつも、歯がゆく、また焦燥を抱いているティファがアルバートに視線をやる。
アルバートも同じ思いだ。
しかし。

「・・・あの二人の戦いに割って入ったところで、俺達じゃラファエルの足手まといになるだけだ・・・。」

力の差が明らかであることは充分に承知している。
ここにいる三人の力は、あの二人には遠く及ばない。
悔しそうに呟き、木に拳を打ち付けた。
しかし、何かできるはずだ。
直接手助けすることができなくとも。
そこで気付いたのは、フェリジアの剣、そして周囲に立ち並ぶ魔物。
フェリジアの武器を消耗させることならできる。

「俺達にできることがあったな・・・。」

顔を上げ、鋭く周囲を見渡しながらアルバートが呟く。
アルバートが何を言わんとしているのか、ティファとセロも気付いていた。
魔物達との距離はあるものの、ただ立ち尽くすだけの魔物がフェリジアにとっての武器となるのなら。
ならばその数を減らし、少しでもラファエルの武器がフェリジアに届くようにするだけだ。
三者は顔を見合わせ、それぞれの意思を確認するように頷いた。

フェリジアはすでに気付いている。
邪魔者がまたこの聖戦を汚そうをしていることを。
狙いもわかっている。
我が配下となっている魔物たちを削っていこうというのだろう。
そうはさせない。
邪魔はさせない。
もう少しで手に入るのだから。
知らず、フェリジアの口元にうっすらと笑みが浮かんだ。

三者が行動に移すと同時に、魔物達にも動きがあった。
ラファエルとフェリジアを取り囲む魔物のうちの何割かが、こちらに向かってのろのろと歩き出したのだ。
三者の思い至った結論は既に読まれていたのだ。
無理もない。
残る魔物達は今や、フェリジアにとっての命綱であるとも言える。
読まれていたというより、ごく自然なことであり、それは予め準備されていたこととも言えよう。

「おとなしく見てろってことか・・・。だが、黙って見てるわけにもいかないんでな!」

剣を握り直し、アルバートが荒く吐き捨てる。
ティファ、セロも再び周囲を包囲する魔物に対して構えをとる。
この場にいる全員の闘気が膨らむことを感じる。
誰ともなく、薄々と気付いていた。
この死闘の決着が近いことを。
死力を尽くすときが来たことを。
森は薄暗い空気を更に淀ませている。
太陽が徐々にその姿を隠していく。

日没まで、あと僅かとなっていた。
posted by ラストエフ at 04:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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