2008年11月03日

41:最後の鍵

一切の暗闇が支配する森。
太陽は沈み、夜空には満点の星が瞬く。
暗いはずの森は、何故か仄かに明るみを帯びていた。

渦巻く風。
それは狂刃となって周囲の木々を薙ぎ倒し、草葉を散らす。
その中心から木霊するのは、女の高らかな笑い声。
強風の煽りを受けつつも必死でそれに抗うアルバート。
絶望の表情で座り込むティファ。
牙を剥くことすら忘れてしまったセロ。
三者は絶対的な力の差を思い知り、ただ為す術もなく自らの死を待つだけとなっていた。

(ここまでなのか・・・!)

比較的フェリジアに接近したアルバートは、間近で風の刃を目にする。
あらゆる物を粉砕し、切り刻み、近付く物を容赦なく細切れにするであろう、神の風。
すでに完全な力を手に入れたフェリジアに対し、人である彼らが手の届く相手ではなくなっていることをありありと証明している。
ティファに視線をやる。
涙を流し、放心したように地面に座り込んでいる。
渦巻く風が勢いを増す。

(すまん、ティファ・・・)

徐々に自分に迫り来る幾多の刃を目に、剣を地面に刺して歯を食い縛った。
眼前に迫る、自らの死を受け入れる。

(ならば、最後まで抗ってやる・・・!)

せめてティファとセロが逃げる時間を稼ぐ。
この身が果てようとも、その意志だけは貫いてみせる。
アルバートは剣を引き抜き、ほぼ装備のない状態で立ち上がる。
身体中に刻まれるうっすらとした切り傷。
風は徐々にその勢いを広げ、更に凶暴に荒れ狂う。
構えた剣が風にぶつかり、小さな欠片を舞わせる。

(・・・最後に、一仕事頼むぜ・・・)

愛用の剣にそっと語りかける。
刀身が小さく削られていく。
おそらく中心に近付けば、この剣はおろか自分の身すらも粉砕されるだろう。

どくん

鼓動を感じた気がした。
これは自分の鼓動だろうか。
いやに静かに聞こえる。
死を目前にして、アルバートは冷静だった。
そして、決死を覚悟して、一歩前に出る。
風が全身を叩く。
新たな切り傷が刻まれる。
腰を落とし、力を溜める。

刃の渦の中に、踏み込もうとした。


その瞬間だった。
小さな、変化が現れる。
風の勢いが弱まった。
直後、小さな変化が大きな変化へと移っていく。

どくん

風が見る見るうちに納まり、やがてその中心にいた二人の姿すら目視できるようになる。
アルバートはこれを好機と見たが、何故か咄嗟に動くことができずにいた。
何故なら、その中心にいた風の主であるフェリジアの様子が一目で先ほどよりも違うことに気付いたからである。
体勢は変わらず、ラファエルの腹部にはフェリジアの指が突き刺さっている。
しかし、そのフェリジアの表情は強張り、驚愕が浮かんでいた。

どくん

気付けば、フェリジアの高らかな笑い声も消えている。
むしろ何かを恐れるように目を見開き、ラファエルに突き刺さる腕を掴みかすかに震えていた。
そして、続くフェリジアの絶叫。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

両膝を着き身体を仰け反り、天に向かってフェリジアが吼えた。
彼女の身に何が起こったのか。
死を覚悟したアルバートも、絶望に打ちひしがれていたティファも、横たわっていたセロも、変化に気付きその光景を目にした。

どくん

風が完全に消え去る。
残ったのは、力尽きたように目を閉じたままのラファエルと、苦悶の表情で天に吼えるフェリジア。
そして二人を中心に渦巻く風の爪痕。
辺りは仄かに明るい。
深い森の奥にあってこの明るさ。
空には満点の星。
三者は絶望故に、そしてフェリジアは狂おしいほどの歓喜故に、その存在を忘れてしまっていた。

どくん

二つある鍵のうちの、最後の一つ。
満月の存在を。
ざわめく木々の枝の間から柔らかい光が差し込む。
その満月の存在がただの偶然なのか、それとも運命だったのか。
この死闘の場において、満月の光は確かに一帯を照らし出していた。

「・・・そうか・・・満月・・・!」

アルバートが空を見上げる。
暗い夜空の中に、穴を開けるようにして大きな満月が昇っていた。

「鍵が・・・そろった。」

ティファがぽつりと言葉を漏らす。

どくん

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!!!!!」

フェリジアが一層の絶叫を伴ってラファエルから離れる。
二、三歩よろよろと後ずさり、ラファエルから離れた。
そして憎悪を含んだ視線でラファエルを睨みつける。
未だ力なく木を背にして地面に座り込むラファエルを。

どくん

そして、三者は新たな奇跡を目にする。
ゆっくりと、ラファエルの頭が持ち上がる。
目が開かれる。

どくん

「ラファエル・・・!」

ティファは知らず笑みがこぼれ、更に溢れる涙を止めることができない。
アルバートとセロにも安堵と歓喜の表情が浮かぶ。

「・・・おのれ・・・!!!!!!!!」

フェリジアだけが、溢れんばかりの殺意と憎悪を込めてラファエルに視線を突き刺す。

静かに立ち上がったラファエルの目には、確かに強い力が宿っていた。

posted by ラストエフ at 14:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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