2008年12月09日

42:魂の風

大地をえぐる跡、薙ぎ倒された木々、散らばった枝葉、神の力を物語る爪痕の渦。
その中心にあって、対立する二つの人外の影。
低い呻きとともに殺意と憎悪を込めた視線を目に宿すフェリジア。
その視線の先には、しっかりと大地に足をついて威風堂々と立つラファエル。
フェリジアに腹部を貫かれ、神の力を得るためにその身から力と魂と命を吸い取られたラファエルが、奇跡を得て甦った。

「よかった・・・!ラファエル!」

ティファが、先程とは違う涙を流しながら安堵の声を漏らす。

「・・・マスター・・・!」

セロがよろよろと立ち上がり、主の姿を見て喜びとともに力を取り戻す。

「心配させやがって・・・!」

アルバートも同じく、安堵感からかその場に座り込み、傷だらけの身体を地面に預けた。

ゆっくりと三者を見渡すラファエル。
そして、静かだがはっきりと言う。

「すまなかった。だがもう大丈夫だ、安心してくれ。・・・後は、俺が全ての決着をつける・・・!」

三者に声をかけた後、ゆっくりとフェリジアに視線を移し対峙する。
フェリジアからはすさまじい怒りの波動と殺気。

「・・・おのれ・・・!おのれ!!神に逆らうというのか!!」

今までとは違い、明確な殺意を込めた視線でラファエルを睨む。
ラファエルは一歩、前に進む。
そしてフェリジアに言葉を返す。

「違うな。逆らうんじゃない。抗っているんだ。運命に。絶望に。それに、貴様は神なんかじゃない。その力も、すでに失っている。」

一言一言に力を込め、区切るように、しかしはっきりと応えた。
それに対し、フェリジアがさらに怒りを増したことがその波動で感じ取ることができる。

「だまれぇ!!・・・もういい・・・お前なんかいらない・・・!ここにいる全員、皆殺しだ・・・!一瞬のうちに切り刻んでくれる!!!!」

激しい怨嗟と怒り、それらを伴って呪いの言葉を吐く。
そして、手に入れた神の力、風の刃を発生させようと力を込める。

「・・・!な、なんだ・・・!?力が・・・!??!??」

しかし、思うように力を操ることができない。
混乱し戸惑うフェリジア。
さらに徐々に近付いてくるラファエルに対し、数歩後ずさる。

「言ったはずだ。貴様はすでに力を失っていると。・・・フェリジアは、俺の中にいる・・・!俺に力を貸してくれている!」

ラファエルの瞳に宿る強い力。
それは自身の生きる意思であり、フェリジアの願いであった。
形勢が拮抗する二人。
徐々にその距離を縮めるように、ゆっくりと歩みを進めるラファエル。
フェリジアは眉の間に皺を浮かべ、怒りの表情とともに歯ぎしりをしながらまた一歩後ずさる。
まるでラファエルに対して恐れを抱くかのように。

「・・・く・・・!眷属達よ!奴を捕らえろ!!殺せ!!肉を喰らい、血を啜り、腸を貪り、骨までしゃぶり尽くせ!!」

フェリジアは配下である魔物達を見渡し、声を荒げる。
手足のように操れるはずの魔物達は、それでも女王の命令に従うことはなかった。
まるで糸が切れた人形のように、その場で立ち尽くし、あるいはふらふらと森の奧へ姿を消し、ラファエルに襲いかかる魔物は一匹としていなかった。

「何故だ・・・!?私は力を手に入れたはずだ!魔物共を意のままに操り、風を操り、神に等しい力を手に入れたはずだ・・・!!」

神に等しい力を手に入れ、今まで優位に立っていたフェリジアが、ここにきて初めて明らかに狼狽する。
ぱらぱらと姿を消して行く魔物達を目にして、さらに困惑の表情を浮かべる。

「無駄な抵抗はよせ。貴様に勝機はない。それに、こちらは『鍵』が揃った。・・・形勢は逆転した・・・!」

徐々に距離が縮まる。
ラファエルの言葉に、フェリジアの表情に恐怖の色が浮かぶ。
しかし、そこでフェリジアがひとつ気付く。

「ふ、ふはははは!鍵だと!?その状態で何ができる!確かに満月は昇った!だが、その手にしているものはなんだ!私の力が例え薄れたとしても、その状態の武器で何ができるというのだ!!」

ラファエルの持つ武器。
ふたつあるうちの最初の鍵。
銀色に輝く退魔の力を宿す二対の剣は、変わらずラファエルの腕ごと魔物の身体から生成された粘体の物質で全て覆われていた。
フェリジアが力を失ったことも、粘体のまま固定されてしまった魔物の身体は、その影響を受けずにラファエルの腕と武器を飲み込んだままだった。
フェリジアは数少なくなった自らの優位性を示すように、ラファエルを睨む。

「力が薄まったとしても、そんな状態の貴様にこの私が負けるはずがないだろう!もうお前なんかいらない・・・!一思いに始末してくれる!!」

フェリジアは最初に会ったときと同様、自らの身体の内部から粘体状の物質を捻出させ、右手を武器と化した。
そして先程抱いてしまった自分の恐怖を振り払うかのように構え、ラファエルに対し向き合う。
恐らく防御すらままならない状況で、それでもラファエルは不敵な笑みを浮かべる。

「・・・言ったはずだ。フェリジアがおれに力を貸してくれていると。」

死闘の場所。
凶風が巻き起こった森。
その中に、柔らかい風が頬を撫でる。
まるで、満ちる殺気を癒すかのように、柔らかく優しい風。
それは徐々に渦を巻く。
そして明らかな力を伴って、ラファエルの周囲に集まり、渦巻く。
ラファエルは立ち止まることなく、ゆっくりと歩を進める。
風を纏い歩くラファエル。
次の瞬間、一陣の風が刃となり、ラファエルの腕に絡みつき拘束していた魔物の一部を切り刻み、一瞬のうちに消し去った。

「!!ば、ばかな・・・!!風を、操る、だと・・・!」

フェリジアの表情が驚愕に歪む。
ラファエルは明らかに、風の力を宿し、両腕の自由を取り戻した。
そして両手に持つ銀の剣を一降りし、さらにフェリジアに近付く。
その剣にも、まるで力が宿ったかのように満月の光を反射して輝いていた。

「・・・う、うぅ!・・・おのれ・・・!!」

驚愕と怒り、そして恐怖を宿し、フェリジアは歯を食いしばり喉の奥で低く呻る。

「・・・この、身体を・・・斬るというのか・・・!貴様の妻であるこの私の身体を・・・!!!」

もはや必死とも思える声で最期の足掻きを見せるフェリジア。
それはまるで最期の切り札でもあるかのような発言だった。
例え魔物に同化されたとはいえ、その外見は変わらず美しい上位種であり、ラファエルの妻の姿であるのだ。
そしてラファエル達の目的は、フェリジアの救出。
それ故に、フェリジアに対して有効な攻撃を躊躇してしまう場面もあった。
フェリジアの発言に、歩を止め、立ち止まるラファエル。
フェリジアの表情に一瞬安堵の色が浮かぶ。

−斬ることなど、できるはずがない−

フェリジアの表情に浮かんだ安堵が如実にそう物語っている。
やや俯き、目を瞑るラファエル。
数瞬の間の後、目を開け顔を上げたラファエルの表情に、迷いはなかった。
瞳には力が宿り、覚悟と決意が見て取れる。

「・・・貴様は、フェリジアではない。ただの抜け殻だ。フェリジアの魂は返してもらった。・・・最後に、その身体を返してもらう・・・!!」

固い決意とともに、ラファエルが力強く発した。

歯を食いしばり、見た者に呪いをかけるかのように怒りを浮かべるフェリジア。
そして力強く大地に立ち、その視線を真っ向から受け止め決意と誓いを胸に宿すラファエル。

それを見守るアルバート、セロ、ティファの三者にも、戦いの終わりが近いことが読み取ることができた。

満月の光を浴びながら静かに対峙する、ラファエルとフェリジア。
固い絆によって結ばれた異種族の二人。
数奇な運命によって最愛の者と剣を交わすこととなった男と女。

最後の死闘が、始まる。


posted by ラストエフ at 04:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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