2008年12月23日

44:休息の酒場

とある日の夕暮れ、商業の街ギラン。
様々な商店が建ち並び、様々な人種が街を行き交う賑わった街。
今日もいつもと変わらない人々の喧噪がそこら中に溢れかえっている。
多くの住人や旅人が往来する街の中心部から外れた場所に、ぽつんと佇む一件の酒場があった。
表に掲げられた手作りの看板には『虹色の風亭』と書かれている。
街の外れにあるにしては店内はそれなりに賑わい、繁盛している様子だった。
女主人とその夫、そしてその友人の女性の三人で切り盛りしている酒場は、美味い料理と豊富な酒類、旅人への支援等で有名であり、特別大きな店でもないが評判があり、人気があるのも頷ける。
その日も、数人の客で賑わう店内で、カウンターの席に座る男女二人が、店の男と話に華を咲かせていた。

「・・・と、まあその奇跡ってやつのお陰で俺達は助かったってワケだ。」

麦酒の入ったジョッキをグイッっと空け、カウンター席に座る男、アルバートが一旦話を切る。

「あくまでも私の想像、の話なんだけどね。」

アルバートの横に座る女性、ティファがその後を引き継ぐ。
蜂蜜と果汁で割った女性に人気のある弱い果実酒をちびちびと口に運ぶ
ティファの前には、色とりどりの果物が切り分けられた皿が置いてあった。

「どう思う?クリフの旦那。」

軽くなったジョッキを軽く振りながら、アルバートはカウンターを挟んで座る店の男性、クリフに尋ねた。
この酒場を経営する三人のうちの一人で、女主人の夫である彼は主に旅人への情報の提供や仕事の斡旋のほか、怪我人への治療なども行っている。
読書好きのその青年は、一見すると華奢な外見だが落ち着いた雰囲気を持ち、知識が豊富で情報通でもある。
クリフはアルバートの話に、うーん、と呻り、腕を組んで考え事をしているようだ。

「とても興味深い出来事だね。僕の持つ書物や文献でも見たこともないし、ましてや聞いたこともない。おそらく前例はないだろう。」

二人に向き直り、柔らかい物腰で語りかける。
そして、空になったアルバートの飲み物を新たに用意しながら更に続ける。

「はっきりとした答えは出せないけど・・・きっとティファの想像が正しいんじゃないかな。」

アルバートに新しいジョッキを渡し、にっこりと二人に微笑んだ。

「色んな偶然が重なり、予想もできない事態が起こる。きっとそれを奇跡と呼ぶんだろうね。そして、ティファとアルバートがその場にいたことも、奇跡を起こした一つの要因として含まれているんだろう。」

礼を言ってジョッキを受け取り、その中身を大きく一口煽るアルバート。
店内は他に数人の客で賑わっており、たまに響く笑い声や話し声が聞こえていた。

「それで、その後はどうなったんだい?」

クリフがカウンターに座る二人に、死闘の結末を尋ねる。
ラファエルとフェリジア、二人の悲しい物語の行方を。

「あぁ、えーっとどこまで話したっけ。」

「ラファエルが風を纏ってフェリジアと対峙した、ってとこ。」

アルバートの言葉をティファが引き継ぐ。
あぁそうだった、と呟き、アルバートが先を紡ぐ。

「・・・それが、本当に最後の死闘で、勝負は一瞬の交錯で決着したんだ。」

いつの間にか店内の客は若干減り、注文が落ち着いたのか、女主人が厨房から出てきており、またティファの隣にはウェイトレスである女性が腰掛けていた。
女だてらにこの酒場の主人であり、クリフの妻であるオリガは、注文を受けた全ての料理を出し切り、休憩がてらその物語に聞き入った。
ウェイトレスの女性、リオーネも同じく仕事が一段落したため、アルバートの話す物語の続きに耳を傾けた。

今でもはっきりとその光景が浮かぶ。
自分は、セロやティファよりも近く、あの場で最も鮮明にその闘いを目に焼き付けることができたのだから。
アルバートはつい先日体感し、目の当たりにした奇跡と、悲しい運命を背負った人外の二人と、そしてその闘いを思い返しながら続きを話し始めた。
posted by ラストエフ at 04:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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