2009年01月14日

50:虹色の風

遠くに連なる山々の頂がうっすらと明るみを増し、その間から朝日の欠片が覗いている。
森を抜けたところにある小高い丘に、みっつの人影とひとつの獣の影が見える。
その丘の前には広大な海が一望でき、後ろは人が踏み込むことがないであろう深い森が口を広げている。
見晴らしの良い丘の一部が盛り上がり、その周囲にたくさんの花が供えられていた。
そしてその前に跪く男の姿。
それを見守るかのように数歩下がった場所から男の後ろ姿に視線を送る男女の姿と、一頭の獣の姿。

徐々に明るくなる空は、夜明けが近いことを教えてくれる。
悲しく、長い死闘に決着がついた後、ラファエル達は森を抜け、フェリジアをこの丘に埋葬した。
森へ還ること。
それが彼女の最期の願いだったのである。
やがて、妻が眠る墓の前からラファエルがゆっくりと立ち上がる。
彼は今、何を思うのだろうか。
振り返り、ティファとアルバート、セロの元へと近付いてくる彼の表情は、とても穏やかなものだった。

「・・・貴方達のお陰で、全てに決着をつけることができた。感謝している。・・・それと、巻き込んでしまって、すまなかった。」

静かに、ティファとアルバートに対して感謝し、同時に謝罪する。

「そんな、巻き込んだなんて・・・私達のほうこそ、足を引っ張ってしまって・・・。」

ティファが困ったようにそれに応える。

「いや、二人がいなかったらどうなっていたか。助かったよ。二人は俺の恩人だ。この恩は忘れない。・・・ありがとう。」

ラファエルは微笑み、優しい声で二人に再度感謝を述べる。
ティファはその言葉に赤面し、やや俯いてどこか嬉しそうにもじもじと照れている。
その隣に立つアルバートも、柔らかい微笑みを戦友に返す。
そしてアルバートは、相変わらずもじもじとしながら何かを迷うようなティファに一度視線を落とし、苦笑混じりの小さなため息を漏らす。

「なぁ、ラファエル。あんたこの後、どうするつもりなんだ?」

ティファが正に尋ねたかった内容を、見かねたアルバートが代弁する。

「そう、それ!何か、予定とか目的とか・・・。」

ティファが勢いよく顔を上げ、アルバートに続く。

「・・・まずは、一度故郷へ戻ろうと思う。借りている武器を返さねばならない。その後は・・・」

ラファエルはそこで一度言葉を句切る。
そして懐から布に包まれた物を大事そうに取り出す。

「フェリジアも、故郷に帰してやりたいんだ。エルフの森に入ることが許されるかどうかわからないが・・・。」

ラファエルが取り出したそれは、フェリジアの、一房の黄金の髪が包まれている。
手の中にあるフェリジアの髪に視線を落とすラファエル。
ティファの見た彼の表情は、どこか儚げに見えた。
まるで消えてしまいそうなほどに。
現実味を帯びない、幻のような印象を与えるラファエルの姿に、どこか不安な気持ちを抱いてしまう。
そしてティファは、決意を固める。
あの一言を彼に伝えるために。

「故郷へ向かうってことなら、ギランは通り道だな。ちょうどいい、ギランの外れに、俺達の仲間が経営する酒場があるんだ。一度顔出してみないか?俺達も、ハイネでの報告や事後処理が終わったらそこに向かうつもりだ。」

「あぁ、わかった、行ってみよう。」

アルバートとラファエルは、互いに戦友として認めあっていた。
それはごく自然に、男同士、肩を並べて死闘を潜り抜けて芽生えたものでもある。
ラファエルは、このアルバートが自分のために、死を覚悟してまで飛び込んできてくれたことを知っている。
そしてティファは、か弱い身でありながら死地に残り、自分を助けようとしてくれたことを知っている。
勿論、相棒であるセロも然り、自分のために長い距離を駆け、命を預けてくれた。
この二人の仲間達が、ギランにいるらしい。
不思議と、会うのが楽しみに思えてくる。

ラファエルとアルバートが言葉を交わしている間、ティファは先程決心した言葉を伝えようとするが、どうしてももう一歩が踏み出せない。
気恥ずかしさが勇気を上回っている。
ほんの一握りの勇気が欲しい。
アルバートが、ちらりとティファに視線を移す。
悩んだ表情で両手の指を組んで忙しなく動かしている。
少し呆れ、それでもティファらしいと思いながら苦笑し、肘で肩をつつく。
恥ずかしそうな視線をアルバートに送ってくる。
アルバートには、ティファがラファエルに何を言おうとしているのかわかっている。
でもその一言をなかなか言えないでいる。
世話の焼ける妹のようなティファを、ほんの少し、後押ししてやろう。

「・・・あの・・・」

恐る恐る、ティファがラファエルに声をかける。
そして一歩、ラファエルの前へと歩み出て、緊張しながらも顔を上げる。
アルバートより若干高い位置にある視線をまっすぐに見る。
そして、一度深呼吸して、言葉を繋げた。

「もし、よかったら、私達の血盟に入りませんか?」

緊張が伝わる固い声で、しかしはっきりと、ラファエルに言葉を伝えた。
きっと、今自分の顔は真っ赤になっているだろう。
心臓が強く脈打ち、顔が熱くなっているのがわかる。
ラファエルは、少しだけ驚いた表情でティファを見つめていた。
この俺を迎えてくれるという。
驚いたが、それ以上に、素直に嬉しいと思った。
ティファからアルバートに視線を移す。
彼はティファの姿を微笑ましく見守っており、ラファエルと視線が合うと、また優しい笑みを浮かべる。

「歓迎するぜ。」

アルバートもまた、ティファと同じであった。
微笑みを浮かべるアルバート。
緊張した面持ちで返答を待つティファ。
この二人は、俺に手を差し伸べてくれた。
絶望に打ちひしがれ、一度は死をも選んだ俺を、また救ってくれるというのか。
二人に視線をやる。
その時のラファエルの表情には、二人が初めて見る、とても自然で優しい微笑みが浮かんでいた。

「・・・役に立てるかどうかわからないが・・・」

静かに、言葉を紡ぐ。

「こんな俺を迎えてくれるのなら、喜んで。」

ティファの表情が、ぱっと明るくなり、まるで花が咲いたかのような晴れやかな笑顔になる。
アルバートは最初からこう答えると確信していたのか、それでも嬉しそうな表情が浮かんでいた。

丘に立つ4つの影が一層濃く、足下から伸びる。
遠くの山の間から顔を覗かせた朝日が柔らかく世界を包む。
新しい朝は、希望を与える光だった。
ティファが、ラファエルに右手を差し出す。
ラファエルもその手をしっかりと取り、握り返す。
太陽の光に包まれて大地に伸びる影が、新しい道へと続いていた。



「ようこそ、『虹色の風血盟』へ!」


    〜 〜 完 〜 〜
posted by ラストエフ at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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