2009年05月01日

聖痕の十字架 番外編:故郷の色

沈黙の洞窟。

ダークエルフの故郷であるここは、とある場所に口を開く洞窟から繋がった地下に存在する。
その空間は地下にあるとは思えぬほどに広く、数多くのダークエルフ達が今なおそこで生活している。
独自の文化を築き、かつては閉鎖的だった彼らも、時代の流れとともに徐々に変化していった。
すなわち、外界との交流。
そして人間達との共存。
洞窟の中で繁栄していった彼らの村は、今では町と呼べるほどに発展し、そこに留まる人間もいた。
洞窟の中は自然発光する植物や篝火の設置によって周囲を見渡せるほどの明るさがある。
太陽の光とまではいかないものの、生活するには充分不自由のない環境が整っていた。
町を抜け、洞窟の再奥に至ると遥か昔に建立された神殿がそびえ立つ。
その神殿にはダークエルフを統べる長がおり、種族から厳選された神官達が常に守護していた。

町があり、文化がある。
そしてそれは自然とさまざまな職種を生み、店ができ、更なる発展を生み出していった。

町の中にひっそりと営んでいる酒場。
仄暗い店内に二人のダークエルフが一つのテーブルに座っている。
一人は旅装束のような服装に身を包み、使い古された外套が椅子に掛けられていた。
肩まである銀髪に黒い服。
異様に目を引くのは、外套の掛けられた椅子に置いてある数多くの物騒な武器。
どれもが歴戦を物語るように使いこなされていることが一目でわかる。
その男はテーブルに置かれた、酒の注がれたグラスを静かに見つめ、また静かに口に運んでいた。
その向かいに座る男はやや短髪で、服の色こそ同じであれ、軽装ではあったがその服装はどこか上品なものであった。
足を組んでやや横を向き、同じく酒の注がれたグラスを静かに傾けていた。

店内には他の客の姿もちらほらと見えるがひっそりと静まっており、落ち着いた雰囲気を保っていた。

二人も相変わらず静かにグラスを傾ける。
氷同士のぶつかる音がひときわ大きく聞こえた。

「・・・すまなかったな。」

長髪の男が静かに語る。

「なにがだ?」

短髪の男は視線だけを向け、長髪の男が何に対して誤るのかを思い返す。

「武器のことだ。いきなりのことで、お前に無茶な注文をしてしまったからな。」

申し訳なさそうに長髪の男が続ける。
しかしその表情は柔らかく、心を許せる相手に見せるものであることが窺えた。
短髪の男は小さく、「そのことか」、と苦笑交じりに呟き、口に運んでいたグラスをテーブルに置いた。

「なに、大した問題でもなかったさ。神殿側も、お前が必要としていると知ったから快く貸してくれたよ。」

そう言って酒瓶の中身をグラスに注ぎ、ついでに目の前に座る長髪の男にも差し出す。

「それに、こうやって事が済んだら返しに来たんだ。また必要なときは言えばいい。いつでも力になる。」

短髪の男は微笑み、目の前の友人に語った。
長髪の男も、心強く力を貸してくれる友人をまっすぐに見つめ返し、自然と笑みがこぼれた。
言葉少なく、しかし分かり合える友人。
かつて肩を並べて共に戦った戦友。
二人は再び、静かにグラスを傾けた。



やがて長髪の男が立ち上がり、椅子に掛けてあった外套に手を伸ばす。

「・・・行くのか。」

短髪の男が問う。

「ああ。世話になったな。」

長髪の男が短く答える。
短髪の男はそれを止めるでもなく、再び旅立つ友人の姿をただ見守る。

「エルフの森、か。」

短髪の男が静かに口を開く。
多数の武器を持つ長髪の男の手が一瞬だけ止まる。
その表情はどこか悲しげで、暗い影を落とした。

「気をつけて行け。・・・たまには、顔出せよ。」

短髪の男は優しい笑みと共に友人を送る。
その胸中に宿る悲しみを知るからこそ、友人の身を案じていた。
そしてそれは言葉にしなくても長髪の男にも届いていた。

「それじゃ、またな。」

長髪の男は外套を羽織り、見送ってくれる友人に一時の別れを告げ背を向けた。

「ラファエル。」

短髪の男が、旅立とうとする友人の名を呼び止める。
ラファエルと呼ばれた長髪の男は足を止め、呼び止めた友人に振り返る。

「・・・神殿に帰ってくる気はないか?」

短髪の男は変わらず椅子に腰掛けた格好のまま、静かに、しかし力強く、どこか願いを込めた響きで言葉をかけた。
しばらくの沈黙。
ラファエルは気付いている。
友人の、自分を気遣う優しさを。
悲しみ抱く友人を案じていることを。
ラファエルは、友人に心配をかけさせてしまったことを申し訳なく思った。

「・・・俺に神官なんて性に合わん。それにあの服、案外お前に似合ってるぞ、リウヒ。悪いが、俺の分まで堅苦しい仕事に追われてくれ。」

ラファエルはリウヒに、どこか楽しそうに、そして心配ないということが伝わるように、晴れやかな笑みで言葉を返した。

「そうか・・・。」

その表情を見て、苦笑しながらリウヒが呟く。

「なら、しょうがないな。お前の分まで面倒くさい仕事を請け負ってやるよ。・・・その代わり、今度来るときは美味い酒と土産話を忘れるな。」

リウヒはグラスを持ったその手でラファエルを指差す。
二人は互いに、自然と笑みがこぼれる。
リウヒは、ラファエルが悲しみに押しつぶされないであろうことに安心し、表情が和らぐ。
そしてラファエルも、リウヒに自分の心が伝わったことに安心し表情が和らいだ。

「・・・そうだ。俺を血盟に誘ってくれる人達がいるんだ。今度、紹介するよ。」

ラファエルがリウヒにそう告げる。

「そうか、楽しみにしてるぞ。」

リウヒは楽しそうな表情を浮かべ、ラファエルに応えた。

「またな。」

「ああ、また。」

ラファエルが短く別れを告げると、リウヒも同じく短く応える。
二人に、余計な言葉は必要なかった。
そしてラファエルは振り返ることなく店の外へと足を向ける。
リウヒもそれ以上の言葉を掛けることもなく、静かにラファエルの背を見送った。
店内からラファエルの姿がなくなる。
リウヒは瓶に残った酒を再びグラスに注ぐ。
一人グラスの酒を見つめるリウヒの表情は、嬉しそうで、どこか安堵の色が浮かんでいた。


posted by ラストエフ at 02:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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