2007年05月22日

16:愛憎の十字

鉄とも鋼とも質の異なる、鈍い衝撃音が暗い森に響く。
その正体はラファエルの装着するクロウと、エルフの女性が右手から捻出させた『硬質化した液体』とが打ち合わされる音であった。
ラファエルのクロウは両手に、エルフは右手に武器を装備していることとなる。
しかし、そのエルフは華奢な外見とは裏腹に、ラファエルの両手から繰り出される息もつかせぬ連続攻撃に対し、右手一本でいとも簡単にそれを捌く。

両者は瞬時に間合いを詰め、同時に斬り合った。
ラファエルは一撃で勝負を決する覚悟で、低い体勢のまま滑るように地を蹴り、最大にまで力を貯めて右手のクロウをエルフに対して放った。
エルフはその必殺の一撃が届く寸前に、左手でラファエルの右手首を掴み阻止する。
ラファエルはその程度で取り乱すこともなく、瞬時にもう片方のクロウを突き出す。
エルフはそれを右手で外側に逸らすと同時に、流れるような動きで刃物と化した右手をラファエルの首へと滑らせる。
ラファエルは右手を捕まれたままであるから後退することすらままならない。
しかしそのことを逆に利用し、右手を軸に体を右へ反らしながら左の頬を掠める凶刃を紙一重で避ける。
同時に左足を振り上げ、鋭く唸らせエルフの後頭部に風をも切るような重い蹴りを叩き込む。
が、その蹴り足は空を切る。
エルフはラファエルの右手を解放し、地に片膝をつき蹴りを潜るように避けていた。
エルフの頭上を通るラファエルの蹴り足は、空中で勢いを殺さぬまま方向を真下へと変え、踵を落とす形となる。
頭上に襲い来るラファエルの左足に対し、エルフは刃物となっている右手を振り上げ、そのまま切り払おうとした。
ラファエルは瞬時に狙いを変えて、その右手首、刃物となっていない場所に足を付き下からの攻撃を止めると同時に、それを踏み台に大きく後ろへ宙返りし、飛び退いて距離を取った。
再び数歩ほどの距離が離れた位置に着地したと同時に、数発のスティングがエルフに向かって放たれていたが、先ほどと同じようにあっさりと叩き落とされた。
まばたき数回の間に、目にも止まらぬような攻防が繰り広げられた。

凄まじいまでの戦闘能力を持つラファエルであったが、自分が劣勢であることは悟っていた。
なぜなら、幾度の衝突にも後退させられているのは自分であり、エルフはただの一度も歩みを下げることはなく、それどころか前へ前へと進むだけであったのだ。
その表情には変わらず微笑を浮かべ、ラファエルとの死闘をも楽しむかのように恍惚としていた。
ゆっくりと、しかし確実にラファエルは追いつめられていった。
時々ラファエルの周囲には名も無き魔物達が襲いかかるが、それらは彼の無造作な一撃によって悉く屠られていた。
彼にとってはエルフを取り巻く魔物などはただの邪魔者でしかなかった。
その間もラファエルは目の前にいるエルフから視線をはずすことはない。
若干の呼吸の乱れと、額を伝う冷たい汗が鬱陶しかった。

エルフとの距離を取り直し、幾度目かの衝突が繰り広げられるかと思われた時だった。
ふとエルフが足を止めた。
ラファエルは一瞬怪訝な表情で眉を寄せるが、警戒態勢を解くことはない。
エルフはじっとラファエルを見つめながら、一瞬で詰められる距離のぎりぎりの間合いを保ちながら歩みを止めていた。
そして神が作成したかのような、彫像のような美しい表情に、一層の情愛を表して言葉を発した。

「・・・嬉しい・・・」

その奇妙な発言にもラファエルは微動だにしない。

「今の貴方の目には私しか映っていない・・・私のことしか考えていない・・・」

自らの言葉に熱を帯びたのか、自分の頬を、唇を、首を撫でながら吐息を漏らした。

「私は貴方の物・・・そして貴方は私だけの物・・・もうひとつの光・・・」

その手がゆっくりと胸元の衣服へと伸びていく。
それまでエルフの言葉を頑なに無視しようとしていたラファエルが、次に彼女が取ろうとする行動に気づき怒りを露わにする。

「それ以上しゃべるなぁぁ!!」

しかしそれを意に介した様子はなく、どこか夢見心地のような様子でエルフは胸元を開けた。
白く透き通るような肌が晒される。

「何故・・・?私たちはこれに誓ったじゃない・・・」

その言葉を掻き消すかのような絶叫に似た咆哮が森の空気を震撼させる。
ラファエルから発せられた声は、怒りと憎悪と悲しみが複雑に絡み合う感情の激流の現れだった。
エルフはラファエルの反応を楽しんでいるかのように言葉を続ける。
可笑しそうにくすくすと笑いながら自分の胸元、ちょうど心臓の位置を愛おしそうに撫でていた。
そこには、美しいエルフの肌にはそぐわない、十字の傷跡が浮かんでいた。
細く、しかしはっきりと彫り込まれたように存在するその傷跡は、十字架を逆さにしたような形を描いていた。
そして彼女は、歯を食いしばるラファエルに目を向け、再び熱の篭もった言葉を投げた。

「・・・ずっと一緒だ、と・・・」
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2007年05月06日

15:二種の死闘

ラファエルとエルフの女性とはおよそ10歩ほどの距離がある。
相変わらずラファエルからの肌を刺すような殺気は弱まる気配がない。
エルフの女性はそれを正面から受け止めながら悠然と微笑んでいた。
彼女からは殺気や怒気などはおろか、むしろ生気さえ感じられないように思える。

ふと、エルフの女性が動きを見せた。
厳密には感情を表に出したのだが。
彫刻のように整った艶やかな唇が笑みの形を作る。
そしてゆっくりと歩みを進め始め、ラファエルとの距離を縮める。
すると、エルフの女性の手に変化があった。
色白のやや小さめの右手全体から半透明の液体のような物が滲み出る。
それは徐々に手刀を延長させたような刃物を形成し、硬質化し残酷な輝きを放つ武器へと変化していった。

ラファエルは牽制も兼ねて、両手に構えたスティングを数発立て続けにエルフの女性に向けて放った。
しかしそれらは悉く、剣を模したかのような右手によって苦もなくその全てを打ち落とされた。
その間にも女性はゆっくりと、しかし確実にその距離を詰めてくる。
ラファエルはスティングを放った後、即座にクロウを構え直し、すでに近接戦闘の態勢を整えていた。

エルフの女性はラファエルとの距離が縮まるにつれ、その表情がさらに深い愛しさに彩られる。
どこか恍惚とした表情で笑みを浮かべている。
その表情は、感情は、見る者によっては歓喜しているような印象を受けるだろう。
事実、彼女は歓喜していたのだ。
もうひとつの光を見つけたのだから。

「・・・嬉しい・・・」

その女性が微かに呟きを漏らす。
やはりその声にも明らかな歓喜の色が伺える。

「また逢いに来てくれると思っていた・・・」

その言葉だけを聞くのであれば、待ち焦がれた恋人にかける言葉に相応しい。
しかし、この場面ではあまりにも場違いだ。
その二人はそれぞれに武器を手にし、あまりにも殺伐とした森の深部で魔物達に囲まれていたのだから。

「・・・黙れ・・・!」

ラファエルがその言葉に反応するように、食いしばる歯の間から低く呻った。
エルフの女性の態度とは対照にラファエルの対応は明らかに殺気立っている。

「今日こそ・・・返してもらう!」

女性は微笑を浮かべ、嬉しそうにラファエルとの対話を楽しんでいるかのようだ。
その女性の態度が、言動が、ラファエルには狂おしいほどの怒りを生み出す。

「貴様が奪ったその全てを!」

二人の距離はすでに先ほどの半分にまで近づいていた。
ラファエルの決意を表したかのような言葉を機に、二人は同時に飛び出した。
二人の人外の脚力は、そこにあった距離を一瞬にして埋めた。



セロが宙を舞い、一匹の魔物に躍りかかる。
その動きに追いつけず、魔物はいともあっさりと首を切り裂かれる。
勢いを殺さないままにセロはその後ろにいる次の獲物に飛びかかっていた。
次の魔物はセロの鋭い牙がその首に食い込まされる瞬間、腕で庇い防御した。
セロはその腕に噛みつき地面に引き倒したが、左右から違う魔物達がそれに襲いかかった。
魔物達には仲間意識などないのだろう。
仲間に覆い被さる獣に対し、仲間を助けるためではなく、ただ獲物を狩る本能のままにセロに襲いかかる。
セロが地面に転がる魔物から素早く離れると、左右から襲いかかってきた魔物達は地面に転がる仲間に各々の剣を突き刺すこととなった。
無惨にも仲間達にとどめを刺された魔物は、地面に転がったまま断末魔の唸りを上げて力尽きた。
しかし魔物達はそれを意に介した様子はなく、セロの姿を探しノロノロと立ち上がった。
その時、立ち上がった魔物達の動きが突然止まった。
次の瞬間にはその二匹の魔物は胴から真っ二つに斬り裂かれていた。
やがて重い音とともに倒れた魔物の背後には、愛用の剣を肩に担いだアルバートが立っていた。

「油断したか?」

アルバートが皮肉っぽく微笑み、セロに問いかけた。
直後、アルバートの顔の横をかすめ背後へと疾走する一筋の閃きがあった。
続いて重い物が地面に倒れ込む音が響く。
アルバートが振り向くと、手にした剣を振りかざした形のまま倒れた魔物の姿が目に入る。
その額には一本の矢が深々と刺さっていた。

「油断したの?」

再び前へと視線を移すと、ちょうど弓を下ろすティファの姿が見えた。
その言葉にはどこか皮肉めいた響きが含まれており、表情はやや呆れていた。
バツが悪そうに頭を掻くアルバートの横で、セロはそのやりとりを眺めていたがすぐに警戒態勢を整えた。

「・・・次が来るぞ」

冷静さを欠かさずにセロが二人のヒューマンに注意を促した。
お互いに小言を言い合っていたティファとアルバートは、瞬時に意識を切り替える。
それぞれが戦闘態勢に入り、再び魔物達に向き直った。


やがて夜空を輝かせていた月の光も弱くなりつつある森の中で、魔物達との戦いは一層の激しさを増していった。

posted by ラストエフ at 22:48| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月25日

14:銀の閃光

アルバートの剣が閃き、魔物の持つ剣らしきものと打ち合わされる。
その一瞬の隙を衝くように、もう一匹の魔物が背後から襲いかかってくる。
しかし、それをティファが矢を放って退かせる。
アルバートは即座に、正面にいる魔物の腹を蹴って距離を取ると同時に、背後に迫っていた魔物の胴を振り向きざまに横に薙ぎ払い真っ二つに切り捨てた。
魔物の断末魔を確認することもなく、アルバートは体勢を立て直し、次に迫る魔物と対峙する。
やや離れた場所にいるティファが周囲に視線を巡らせ、弓を構える。

息をつく暇もなく襲い来る魔物の群れ。
一匹に時間を割いている訳にはいかない。
倒しても倒しても魔物は引くことを知らず、しかもそのどれもが油断できないほどに手強い。
終わりの見えない戦いに徐々に二人の息は上がる。
このままではいつか限界が来るであろうことは明白であった。
それでも二人は最大限に集中力を高め、着実に魔物の数を減らしていった。



ヒューマン二人と魔物達との戦いの場からやや離れた場所では、エルフの女性とダークエルフの青年が睨み合う形となっていた。
エルフの足下には、やっと解放されたハイウルフが苦しそうに、おぼつかない足取りで立ち上がろうとしていた。
相変わらずエルフの女性は足下の獣に微塵も興味を示さず、その視線はダークエルフの青年、ラファエルに向けられていた。
その眼差しはどこか愛おしさに満ちているように見える。

「・・・グ・・・ゥ」

ハイウルフ、セロが呻きながら尚も立ち上がろうとする。
ラファエルは警戒しつつ、セロに言葉をかける。

「下がれ、セロ」

「・・・すまない、マスター」

セロはノドを痛めたのか、やや掠れた声で低く呻り、それでも俊敏な動きで主であるラファエルの元へと戻った。
ラファエルは隣に位置した相棒の様子を横目で伺い、重傷がないことを確認した。

「セロ、あの二人に付け」

ラファエルは正面にいるエルフから視線を外すことなくセロに命じる。
あの二人、とは後ろで多勢の魔物達と死闘を繰り広げているヒューマンのことだ。
その命令に、一瞬セロは後ろを振り返りヒューマンの様子を確認する。
たしかに二人ではあまりにも不利な状況だった。

「了解した」

セロはそう応えると、主の命を実行するべく二人のヒューマンの元へと疾走した。



アルバートとティファは変わらず多勢の魔物達と戦い続けていた。
先ほどと比べて、二人の疲弊は明らかに見てとれる。
アルバートは肩で息をしており、ティファも同じように大きく肩を上下させていた。
しかし、二人の目は強い意志がみなぎっており、諦めることはなかった。

魔物は容赦なく二人を攻める。
意志が折れることはなくとも、悲しいかなその体力にはやがて限界が訪れる。
同時に二匹の魔物に襲いかかられたアルバートが体勢を崩し、地に片手を着く。

「アルバート!!」

ティファが思わず悲鳴のように名前を叫んだ。
アルバートの足払いが地面を滑るように片方の魔物の足元を薙いだ。
バランスを崩された魔物の額にティファが放った矢が深々と突き刺さる。
しかし、もう片方の魔物がアルバートに逼迫している。
体勢を立て直す間もなく振り下ろされる魔物の剣を、懸命に打ち返す。
ティファがその魔物に弓を構え、照準を合わせようとするが、他の魔物がその間に入り支援することができない。

二人に焦りが生じる。
ティファは必死にアルバートを助けるべく矢を放ち、アルバートを包囲しようとする魔物達を次々と打ち倒す。
しかしそれでもアルバートの姿は魔物達の陰になり完全に囲まれてしまった。
剣の打ち合う音と、地面に転がる魔物の屍が生み出されていることからアルバートはまだかろうじて戦い抜いていることは伺える。
ティファは弓を背に戻し、決死の覚悟で腰に携えた短剣を手に取った。
そして唇を噛みしめ、今まさにアルバートを助けるために魔物達の群の中へ飛び込もうとしたときであった。

銀色の閃光が、アルバートを包囲する魔物達の群にぶつかるように飛び込んできた。
ティファの目ではそれを捉えることができなかった。
魔物達は新たな予想外の敵の出現に、動きに混乱が生まれる。
予想もしない助力の正体は、銀毛の獣、ハイウルフであるセロだった。
セロは手近にいた魔物の足首をくわえ、振り回して周囲の魔物数匹を蹴散らした。
その勢いでアルバートを包囲する魔物の輪に穴が開く。
さらに振り回された魔物は、その膂力で足首から千切れて飛ばされ、他の魔物達と激突した。
そしてアルバートに対して剣を振り下ろそうとしていた魔物に背後から飛びかかり、地面に引きずり倒したあと、首を切り裂いてその命を刈り取った。

外部から魔物の包囲網が崩されたことを悟ったアルバートは、即座に自分を取り囲む魔物達の隙を衝いた。
魔物の包囲から解放されたアルバートがようやく体勢を整える。
そこで初めて、自分を助けたのがハイウルフであることを知った。
少なからずの驚きを隠せないでいると、セロが短く言葉を発した。

「マスターの命により、手助けする」

ここに来て心強い存在が合流した。
セロの戦闘力がただならぬものであることは先刻から目の当たりにしている。
アルバートは口元に笑みを浮かべて、珍しい共闘者に応えた。

「そいつぁありがたい、よろしく頼むぜ!」

疲弊した二人にとってセロの参入はありがたいものだった。
アルバートは剣を構え直して、セロと並ぶ形で魔物と対峙する。
ティファもアルバートの無事を確認し、近くまで駆け寄ってきていた。
二人と一匹はさらなる死闘に対処すべく、陣形を立て直し魔物達を迎え撃つ。
不思議なことに、心強い共闘者が増えたことによって、二人の闘志は再び沸々と湧き上がっていた。
それに呼応するようにセロも低く呻り戦闘態勢に入った。


死闘はまだ終わりを見せる気配がない。
今にも爆ぜそうに膨れあがる闘気と、不気味なほどに静かな二人の人外の殺気で染まっていた。
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2007年03月26日

13:因縁の二人

上位種の女は艶やかな唇を動かし、水晶の響きのような美しい声をその隙間から漏らす。
言葉だけを聞けば、優しさと愛しさに彩られている。
しかしその表情はややうつろでどこか現実味を帯びていない。
目は剣呑な光を宿し、口元には薄い笑みを浮かべ、存在しえない相反する感情がその中に渦巻いている。

ダークエルフの青年、ラファエルは殺気を抑えようとする気配がない。
ティファとアルバートに背を向けているため、彼の表情は読めないが、おそらく凄まじい憎悪を貼りつけているであろうことが伺える。
そのことは彼の発する言葉にも現れていた。

「・・・今日こそ・・・返してもらう!」

歯を食いしばり、呻くように絞り出した言葉だった。
その言葉の意味は、二人のヒューマンにはわからない内容であり、響きであった。


女はゆっくりと歩みだし、少しずつラファエルへと近づいていく。
異形の魔物達がそれに続く。
美しく黄金の輝きを放つような上位種であるエルフが、おぞましい行列を作る魔物を付き従えている。
そして、同じく異種族であるダークエルフとのただならぬ因縁を伺わせるような発言。
今対峙している二人の人外が、浅からぬそして計り知れぬ関係であることは、容易に察することができた。

徐々にエルフとダークエルフの距離が縮まっていく。
離れた場所にいるティファとアルバートにも緊張が伝わる。
エルフは優雅な足取りで地を踏み、ラファエルを見つめながら歩みを進める。
その目にはラファエルしか映っていないのであろう。
爪と牙を魔物の体液で濡らした銀毛の獣、セロを一瞥することもなく、その隣を通り過ぎる。
セロは徐々に近づいてきたエルフに対し威嚇する体勢をとり、低く呻っていた。
セロは、遙か上位の存在であるエルフがその隣を通り過ぎる際、無意識のうちに体を竦ませ怯み、2,3歩退いていた。
しかし、自分の成すべきは主の命を実行するのみ。
自らの意志を奮い立たせ、本能に逆らい、一際大きくうなり声を上げると、力を溜めてエルフに飛びかかった。

容赦のないハイウルフの牙と爪が、エルフの美しい肌に食い込むことが想像された。
セロは、半ば無我夢中で飛びかかっていた。
主であるラファエルが一瞬驚いた表情をしたのを視界の端に捉えられた。
セロの牙は鋭く、爪は強靱な力を宿している。
セロ自身もそれは確信していた。
間違いなく自分の牙は、爪は、たとえエルフであろうと、その柔肌を切り裂くには充分な物であるはずだった。

しかし、セロの牙はエルフに届くことはなかった。
エルフはセロに視線を移すことなく、飛びかかってきた方向である左手を無造作に上げる。
突然、空中でその威力を削がれたセロは、自分の身になにが起こったのか瞬時に判断できなかった。
息苦しさに悶えながら周囲を見ると、主であるラファエルがスティングを構え、こちらを睨んでいる。
自分の体は、あろうことかエルフの細い片手に喉元を捕まれ、空中で制止されていたのだ。
仔牛ほどの体躯を持つ自分を女のエルフが片手で空中に掴みあげている。

にわかには信じられない光景であった。
しかし、自分の喉に食い込む恐るべき膂力は無情なほど現実を叩きつける。
明らかに尋常ではない力で締め上げられている。
足を動かし、その手から逃れようとするが、女の手は少しも緩む気配がない。
やがてセロは苦しそうに口を歪め、食いしばる牙の間から呻り声が漏れる。

その光景を見ていたティファが身震いしたのは、女の現実離れした存在にだけではない。
躍りかかってきた、閃光のような巨体の獣を掴みあげている女は、変わらず愛しい表情で薄い笑みを浮かべたままだったからだ。
一体あの二人に何があったのか。
いつしか、魔物達が自分達との距離も縮めていることに気付いた。
エルフの狙いはダークエルフの青年、ラファエルであっても、それを取り巻く魔物達は必ずしもそうとは限らないのだ。
ここに来て遂に、得体の知れぬ未知の魔物達と戦うことになるのだと悟った。
アルバートが先に前に出て、ティファを護るように立ちはだかった。
いつもの陣形だった。
アルバートが剣として最前線に立ち、ティファはその洞察力を最大限に生かし、やや下がった場所からアルバートの及ばない死角を埋める。
そして弓や魔法で剣をサポートする形だ。
ヒューマン二人の戦いも、今まさに始まらんとしていた。


エルフは、自分に飛びかかってきた獣を微塵も気にとめていない。
掴みあげ、締め上げる指に力が入るのも恐らく無意識のものであったのだろう。
呻き声を上げる獣は、自分とダークエルフとの間に入った邪魔者でしかなかった。
二人の距離は、セロの作り出した交錯から止まっていた。

視線が複雑に絡み合う。
空気が弾けそうなほどの緊張が、森にいる全ての者を包み込んだ。
posted by ラストエフ at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月19日

12:混乱の渦

森に一瞬の静寂が訪れる。
立ち並ぶ木々の間、
おそらく最深部であろう森の奥から姿を現した者は
ダークエルフから放たれる凄まじいまでの殺気を正面から受けているにもかかわらず、
黄金の輝きを放つように美しくそこに佇んでいた。

しかし
その光景はあまりにも異様だった。
普通の森であれば、上位種であるエルフに出会ったとしても
違和感はないであろう。
だがここは普通の森とは到底かけ離れている。
魔物達が跋扈し、
人はおろか命ある生物は好んで近づくことはないであろう、死の森だ。
しかも
その美しい女のエルフと対照的な醜い魔物達が、
彼女を護るような形で取り巻いている。

それだけで充分に「異常」が察知できた。
たとえそのときに、その女が口元に薄い笑みを浮かべていなくても。


上位種と比べれば、やや感覚の劣るヒューマンである二人、
ティファとアルバートにも、その異常は余りあるほど察知できた。
明らかに普通でないことが、視覚で、感覚で、嫌というほど感じ取れる。

ティファは、町中でまことしやかに囁かれていた噂を思い出す。

『魔物の群れの中に、綺麗な女がいた』

今目の前にいる、この美しいエルフがそれなのだ。
確たる証拠こそないものの、しかしはっきりとそう確信した。
それでも未だ混乱する頭をもどかしく思いながら、隣で自分を護るように立つ、頼れる血盟員に視線をやる。
隣の男、アルバートは変わらず警戒態勢を保ったまま、ティファの視線に気付くとゆっくりと口を開いた。

「あれが、魔物を統率しているヤツ・・・じゃないか?」

やはりアルバートもその結論に至っていた。
しかし、まだ確信には至らないように、言葉に力がない。

「私もそう思う・・・。ううん、間違いない。」

肌にまとわりつくような不快な空気に顔をしかめ、
喉を大きく動かして、しかしはっきりとティファは断言した。

「なんで上位種であるエルフが魔物引き連れてるんだよ!?」

落ち着いているように見えても、やはり混乱しているのであろう。
その言葉がやや荒々しく発せられたことが如実に物語っている。

「そんなのわからないよ・・・!」

答えが出ないことはわかっていた。
それでも言葉にせずにはいられなかった。
それは二人とも承知のことだった。

「しかも・・・町まで襲いやがって・・・!」

アルバートの顔が歪み、続く言葉は小さいものであったが、
混乱と怒りが混じり、苛ついた響きを含んでいた。

「理由はわからないけど・・・彼、ラファエルの様子もおかしい。あの人の言ってた『あいつ』っていうのも・・・彼女のこと?」

アルバートはここで驚いたようにティファを見た。
戦闘は得意ではなく、体格も小柄でアルバートの肩よりも少し低い。
あどけなさが残る表情には険しいものが刻まれている。
普段は明るく振る舞っているが、恐ろしい場面には小さく震える姿を何度も見ている。
アルバートにとっては、護るべき、言わば妹のような存在だ。

戦闘に関しては彼女は素人に近い。
このような前線にいることも場違いなほどだ。
しかし、その観察力と洞察力は鋭いものだと感心するものがある。
今回のことに関しても、
少なからずエルフの登場に混乱があったはずである。
にも関わらず、即座に周囲に視線を巡らせ、観察し、これまでの情報を整理している。
対してアルバートは、エルフの登場によって少なからず周囲への警戒が散漫していた。

ティファは、物事の全体的な把握と瞬時の判断力に長けていた。
アルバートはそのことを頼もしく思うと同時に何故か嬉しく思った。
その様子に気付いているのかいないのか、ティファは前を見据えている。

同じようにアルバートも視線を前、対峙する二人の人外の者へと戻す。
相変わらずラファエルからは、後ずさりしそうになるほどの殺気が放たれている。
それを真っ向から受けて悠然を微笑むエルフ・・・。
そしてそれを取り巻く魔物達。

先に動いたのは
エルフの女だった。


正確には
言葉を発したのだ。


その言葉は
二人のヒューマンを更なる混乱へと誘う、理解できぬものであった。


エルフが
笑みを浮かべたまま、ゆっくりと
しかしはっきりと
どこか現実味を帯びない声で、ダークエルフの青年に向かって
言葉をかけた。


「また、会いにに来てくれたのね・・・。」
posted by ラストエフ at 12:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月11日

11:黒の戦神

ラファエルが視線を巡らせる
自分の周囲を取り囲んだ魔物達を感情もなく見渡した。

後方に二人の気配を感じる。
先ほど出会った二人組のヒューマンが追いついたのだろう。
義理堅い種族であるから、手助けをしようと考えているだろう。
脆弱な種族であるにもかかわらず、妙に正義感や責任感が強い。
たとえそれが自身の力の及ぶ範疇にない物事であっても。

普段ならそのおせっかいがありがたくも思えるだろう。
しかし、今はいらない。
この魔物どもを悉く自分の手で殲滅させてやるのだ。
他人の手など借りたくはない。

「手出しは無用だ」

男のヒューマンがなにか言いかけたようだが・・・
それに耳を傾けている暇などない。

『狩り』の始まりだ


魔物達が動きを見せた。
決して早い動きではないが、その圧倒的な数はそれを補って充分なものであった。
徐々に包囲の輪が狭まる。
ここにきて初めてラファエルも構えをとった。
両手にスティングという投擲武器を携える。
そして傍らで警戒態勢をとる獣に言葉をかけた。

「セロ・・・輪を崩せ」

セロと呼ばれた銀毛の獣は主の言葉に低く呻って反応する。

「・・・了解した・・・」

その言葉と同時に銀色の光が魔物達に向かって走った。
正に目にも止まらぬ早さで、
セロはその体に月の光を反射させながら、周囲を囲む魔物達の間を一閃した。
すれ違いざまに、幾重にもなった包囲の輪を成す魔物達の喉笛を裂き、足を砕き、脇腹を食いちぎっていた。
一瞬にして包囲の輪の外へと出たセロは
牙を剥いて一度低く呻った後、緩慢な動きをする魔物達に躍りかかっていた。

ラファエルはセロが駆けたと同時に、
左右に迫る魔物達にスティングを撃つ。
またたきひとつの間に、ラファエルの姿は魔物達の視界から消える。
彼には一瞬の足止めで充分だった。
その一瞬でラファエルはクロウを装着しており、魔物の懐に飛び込んでいた。
低い体勢から重い打撃を次々と打ち込んでいく。
その都度、辺りには魔物の手足が飛び、肉片が散り、腸が撒き散らされた。

その動きにはひとつの無駄もない。
自分の有利な距離を作り出し、時には魔物の立ち位置まで利用して機を作り出している。
軽やかに大木に飛び移り、勢いを増しつつ群れの中へ飛び入る。
その動きに魔物達は獲物を捕らえ切れていない。
ラファエルは着地と同時に3匹の魔物を爪牙で打ち倒す。
着地した低い体勢から一気に体中のバネを伸ばすように
次に控える魔物の胸に重い蹴りを叩き込む。
衝撃を受けた魔物はバランスを崩し、後ずさって背後にいる魔物とぶつかった。
絡み合った二匹が体勢を立て直そうとするが、
ラファエルはすぐさま距離を詰め、二匹の魔物を貫く。
魔物の背中からは、粘液が付着した鋭い爪が生えていた。

内と外
獲物を包囲したはずの魔物の輪は
2方向からの突破により、徐々にその形が崩されていった。


その戦いを間近で見たヒューマンの二人
ティファとアルバートは、次々と魔物の残骸が生み出される凄惨な光景であるにもかかわらず、
息を飲み、知らずラファエルの動きに見とれていた。
元来、ダークエルフという種族は
『暗殺者』としての異名が表すように、1対1の戦いを得意としている。
その体術も主に、一つの対象に対して最大の威力を発揮する。
しかしラファエルは、明らかに一対多数の戦いに慣れていた。
そのことを察知したアルバートは、
ラファエルの異様な強さにわずかに恐怖感すら覚えた。

数分もすると
魔物の数はすでに半分以下にまで減っていた。

「たしかに・・・手出しする必要もなかったな・・・」

不自然な苦笑を浮かべ、アルバートが呟いた。
ティファは言葉を発することすら忘れ、アルバートの呟きにただうなずくだけだった。


残る魔物はあと数匹
ふいに
ラファエルとセロが動きを止める
残っていた魔物も動きを止めた
やや離れたところでその光景を見ていたティファとアルバートが、
その場から動けなくなるほどの、すさまじい殺気が膨らんだことを察知した。
殺気はラファエルからのものだった。

ダークエルフよりも感覚の劣るヒューマンには
その理由に気付くまでに数瞬の間が必要だった

ラファエルの殺気は
新たに森の奥から姿を現した、たった一人の相手に向けられたものであった。

ラファエルの姿のさらに奥
森の最奥の闇から現れた者は
美しい『上位種』と呼ばれる存在
女のエルフの姿をしていた。

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2007年01月28日

10:死闘の序曲

侵入者を嫌うかのように生い茂る草木
目の前を遮る枝葉をかき分け、避けながら
アルバートは森のさらに深部へと駆けて行った一人と一匹を追った
その後をティファが必死に追う

「(かなり走ったハズなのにまだ追いつかねぇ・・・!)」

ラファエルと名乗ったダークエルフの俊足と
ここまでの距離の臭いと気配を嗅ぎ取った連れのハイウルフ
そのどちらにもただならぬ力があることを読み取り
アルバートは自身の額に冷たいものが流れるのを感じる

「・・・あっ!」

ふいにアルバートの後ろを走っていたティファが声を上げる

「どうした!?」

立ち止まり、振り返ってティファの身を案ずる

「大丈夫、つまづいただけ」

気丈にもアルバートに笑いかけるが、その表情には疲労が隠せない
膝に手をつき、肩を大きく上下させている
大きな粒の汗が頬を伝っていた

「すまん・・・」

自分に焦りが生じていることに気づき、
そのためにティファに無理をさせてしまったことを反省した

「さ、行こう!」

しかし追いついたティファはそれを振り払うかのように振る舞い
アルバートの大きな背中を力づけるように叩いた
強がりを見せるティファにアルバートは苦笑しつつも
その姿に力づけられ、安心感を得た


二人がラファエルに追いついたのはそれから間もなくだった
息を切らせて、そばの大木に手をつくアルバート
少し遅れてティファがその横にたどり着き、汗をぬぐった

そう広くもないが開けた場所があり、その中央にラファエルが立ち
先ほどと同じく、付き従うようにハイウルフが傍らにいた
しかし、彼らは周囲を複数の黒い影で取り囲まれていた。
森の深部に生息する、人間の姿を真似た魔物達の群
しかも深部の魔物は少なからず手強くなっている
そのことはここにいる誰もがわかっていた
その数は、ざっと見ても20体以上はいるだろう

「囲まれてるじゃねぇか・・・!」

アルバートがつぶやき、長剣を手に取った
先ほどとは違う、明らかな冷や汗が額に浮かぶのがわかる
ティファも弓を持ち直し、周囲の状況を把握するために視線を巡らせていた

ラファエルは周囲を取り囲む魔物達を視線だけで大まかな数を確認した
その姿は直立
じわじわと距離を詰める魔物を前に
構える気配もない
やや振り返り、背後に追いついた二人に一言

「手出しは無用だ」

と、伝えた。
その言葉は確かに二人の耳に届いた
しかし、到底一人だけで手に負える状況ではないことは明らかだ
アルバートが反論しようとした瞬間
魔物達の群が一斉に動いた

二人は
ダークエルフの青年の言葉を思い知らされた
ただの意地や見栄などではない
彼の戦闘能力を目の当たりにした

『手出し無用』

その言葉は
確かに本物の実力を伴った言葉だった
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2006年12月05日

9:一瞬の交錯

「・・・ダークエルフ・・・!」

アルバートは突如姿を現した
おそらく、二人の先行者であろうその男を見て知らずその名を口にした。

アルバートの本能は、警戒態勢を解くことを拒否している。
その理由は、やや離れた茂みに立つダークエルフの目が
異様な殺気を放ち
その視線が間違いなくアルバートとティファを貫いていたからに他ならない。

「・・・ヒューマン、か」

ややあって先に沈黙を破ったのはダークエルフだった。
口元を覆っているマスクを下げるが、その表情からは感情が読み取れない。
どうやら二人を魔物ではなく、人間であると判別したようだ。

ふと、アルバートは自分達に向けられていた殺気が和らぐのを察知する。
それほど戦闘慣れしていないティファも
張り詰めていた空気が変わったことを肌で感じた。
さらに
そのダークエルフに影のように付き従う存在に気づく
それは子牛ほどの体躯を持つ獣であり
全身を包む流れる体毛は銀色の輝きを放っていた。

「(!・・・ハイウルフ!)」

思わずティファはその美しい獣に目を奪われた。

「こんなところで何をしている」

静かに問い詰めるようにダークエルフが二人を見据える。
その声に我に返るティファ。
よくよくその姿を見ると、全身に禍々しい武器を携えているのがわかる。
腰にはブレードと呼ばれる独特の二本一対の剣が月の光を反射している。
右腕にはガントレット。
肩から腰にかけて、先ほど魔物を討ち取ったスティングという投擲武器が下げられている。
更に背中から覗くのはダークエルフ特有のクロウという武器が鈍く輝いている。
まるで一人で戦争でも起こすかのような出で立ちであった。

「・・・それはこっちが聞きたい。目的はなんだ・・・!」

剣は納めたが、尚も警戒を解かずにアルバートが逆に問い返した。
その挑むような態度にティファが慌てて止める。

「ごめんなさい、私の名はティファ。こっちはアルバート。私達の目的は、最近この近辺に出没する魔物の調査と、その殲滅です。」

アルバートの前に出て、気丈にもダークエルフの青年と対峙する。

「差し支えないなら、お名前と目的を教えてもらえませんか・・・?」

再び沈黙が訪れる。
アルバートはティファの横に立ち、いつでも動けるように体勢を整える。
ややあってダークエルフが口を開く

「・・・名はラファエル。目的は・・・」

一旦言葉を区切り、ラファエルと名乗ったダークエルフの青年は再びその銀色の目に殺気を宿す。

「こいつらを一匹残らず・・・殺すことだ・・・」

足元に転がる魔物の肉片を睨み、怒りをあらわににして言葉を吐いた。
ティファはその様子に言葉では言い表せない恐怖を読み取り、小さく身震いした。
ラファエルは再びマスクで口元を覆い、その表情を隠す。

「・・・あいつは俺が討つ。手出しは無用。」

二人に対し、静かに警告を促す。
が、どこか違和感があった。
まるで誓いの言葉のような響きが含まれていたからだ。
その言葉にアルバートが反応する。

「待て!!」

ティファの前に出て、踵を返そうとするラファエルを呼び止める。

「・・・今、『あいつ』と言ったな。この魔物の正体や、その中心にいる者のことを何か知っているのか?」

アルバートの問いは、確かにラファエルの持つ真相を穿つものであった。
その証拠にラファエルの表情が曇ったのが明らかに読み取れる。
アルバートが更に情報を聞き出そうとした時だった。
低く、唸るような声にそのタイミングを逸らされた。

「・・・マスター・・・敵だ・・・」

声の主はラファエルの横、
ハイウルフからの声だった。
首を回し、上を向き、周囲の匂いや気配を嗅ぎ取ったようだ。
アルバートは思いもよらぬ声に一瞬の虚を突かれる。
その隙にラファエルはハイウルフを従えて闇へと消え去った。

「!しまった!!」

「どうするの!?」

舌打ちして駆け出すアルバートにティファが声をかける。

「決まってんだろ!追うぞ!!」

振り返りながら叫んだ。
二人は口を広げ深い闇へと誘う
森のさらに奥へと走っていった。
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2006年12月01日

8:魔境の深部

「なんだ・・・こりゃぁ・・・?」

辺り一面に広がるおびただしい数の魔物の残骸
何体分の魔物がそこにいるのかわからないほどの肉片を見回してアルバートがつぶやく。

「すごい・・・」

その隣でティファも、知らずに驚嘆の声を漏らす。


アルバートがゆっくりと前に進み様子を伺う。
正に足の踏み場もないほどに
魔物の残骸が散らかっている。

「私達以外に、ここに来た人がいるの?」

ティファがアルバートに確認するように声をかける。

「そうとしか考えられないな・・・
 しかも・・・」

近くの大木に視線を向けるアルバート
それに続いてティファもそこへ視線を移す。

「まだそんなに時間は経ってなさそうだ」

アルバートは渋面になり、警戒を強める。
その大木には、まだ時間が経過していないことを示すかのように
魔物の腸がこびりつき、うっすらと湯気を上げていた。


魔物の残骸は森の奥へと続いている。
そのどれもが原型をとどめておらず、例外なく肉片と化している。
魔物達の粘液が発する異臭に顔をしかめながら二人は少しづつ森の奥へと分け入って行った。

「・・・これをやったのは誰なんだ・・・?」

アルバートは警戒を薄めずに周囲を探る。
森の奥地に現れる魔物は、少なからず手ごわい
それらの群れを相手にするなど、相当の手練であろうことは容易に想像できる。
二人はさらに森の奥へと足を進めるが、一向に魔物の襲撃がない。
まるで「先行者」の手によって狩り尽くされているのかと思えるほどだった。

ふと
前方の茂みに気配を感じ、瞬時に戦闘態勢をとる二人。
アルバートは背中の長剣を両手に構え、ティファは弓に矢を番える。
やがて茂みから現れたのは1体の魔物だった。

その魔物はすぐには襲い掛かっては来なかった。
今まで屠ってきた魔物どもは、知能は皆無に等しく意志や感情なども持ち合わせず
ただ目の前の獲物に食らいつくことしかできなかった。
しかし、今回遭遇した魔物は
姿形に大差はないものの
確かに今までのものとは違い、明確な意志と知能が伺えた。

その魔物が少しずつ距離を詰めてくる。
アルバートは少し腰を落とし、魔物の動きに即座に対応できるような体勢を作る。

その場の緊張感と警戒が炸裂する瞬間

近づいてきていた魔物が足を止め
ビクンと大きく体を仰け反らすと、2・3度ケイレンし地面にくず折れた

「な・・・なんだ・・!?」

突然の出来事にやや驚きを隠せないものの、
警戒を解かずにアルバートは地面に伏した魔物に近づいていく

「なにがあったの??」

おそるおそるアルバートに近づき、ティファが声をかける。
そしてアルバートの傍らから、ピクリとも動かない魔物を覗き込む

「なに・・・?これ」

魔物の首と背中に、闇色の刃物が深々と突き刺さっていた。


アルバートが視線を魔物から茂みの向こうへ移すと
そこには一人の男が立っていた。

黒い外套に黒い服
全身を黒い衣装に包んだ長身の男がそこにはいた。
フードの隙間から見える眼光は異様な殺気を放ち
長い銀髪が肩まで流れていた。

「・・・ダークエルフ・・・!」

アルバートはノドの奥で唸るように「暗殺者」の異名を持つ種族の名をつぶやいた
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2006年08月30日

7:闇の先駆者

地図を地面に置き、それを見つめながら青年が唸っている。
横では火にくべた焚き木がパチパチと音を立てていた。

「うー・・・ん」

腕を組み、あぐらをかいて地図とにらめっこしている。
お世辞にも詳細とはいえない、大雑把な地図だ。
慣れない者であれば自分の現在地も把握できないだろう。
その地図のとりわけ大きな森を示す部分に、
ペンでいくつかの円が描かれている。

「どうしたの?アルバート。ヘンな呻き声出して」

地図をにらんでいる青年、アルバート
その後ろから調理用の鍋を両手に持った女性が、青年の背中越しに覗き込む。

「その、森につけた線って、私達が入ったところ?」

地図に描かれた円を指さし、女性がアルバートに訊ねた。

「そうだ。」

アルバートがため息を混ぜて返答する。

「なんでため息してるの??」

鍋を火にかけ、木のヘラで中身を混ぜながらさらに訊ねる。
野菜や肉を煮込んだ簡単な内容であるが、
食欲を掻き立てられるいい匂いが漂う。

「昨日、結構奥地まで進めただろ?」

「うん。この辺だったっけ?」

地図にある、描かれて新しい円を指さす。

「そうだ。その辺に出た魔物・・・ティファはどう思った?」

アルバートはその女性、ティファに感想を聞いてみた。
ティファは少し考えたあと、眉をひそめる。

「なんていうか・・・気のせいかな、って思ってたんだけど。森の奥にいくほど強くなってる気がする。」

「やっぱりそう思うか・・」

さして驚いた様子もない。
確認するために聞いたようだった。

「じゃあアルバートもそう思ってたの?」

「ああ。」

「それがさっきのため息とどう繋がるのよ?」

鍋の味見をしながらティファが不思議そうに訊ねる。
そして木を削って作った皿に鍋の料理を盛り、アルバートに差し出した。

「気のせいかもしれない。って思ったんだよな?」

うなずくティファ。
皿を受け取り、アルバートが話を続ける。

「俺もそう思ったんだ。つまり、奥に行くほど徐々に強さを増している。と、これが俺の予想だ。」

ティファは静かにその話を聞いている。

「その『気のせいかもしれない』ってところが厄介でな。ヘタすると気が緩んで油断するかもしれない。」

「あぁ・・同じ感覚でいたら危ないってこと?」

アルバートはそれを肯定し、料理を一口二口啜った。
ティファも少しづつ料理を口にしながら話を進める。

「それと、奥に行くほど強くなるってんなら、その中心には何がいるんだ?それに、町で耳にした噂・・・」

「『魔物の群れの中に、綺麗な女がいた』ってヤツ?」

アルバートがうなずく。

「魔物を統率しているヤツがいるんじゃないかって思うんだ。」

しばらく沈黙が続く。
二人がキャンプしている場所は森からそれほど離れてはいない。
夜の闇にうっすらと見える森の奥に何がいるのか。
ティファは少々の不安に駆られた。

「さて、メシ食ったら明日の準備してさっさと寝ようか。」

アルバートはティファの様子を見抜いたのか、
素っ気無い言葉を置いてその場から腰を上げる。
ティファは彼の不器用な気遣いがありがたかった。
何気ない一言で彼女の不安は十分払拭された。
剣の手入れをするアルバートの背中に向かって、
ありがとう、と小さく述べた。



次の日

十分な準備をして森の奥へと向かう二人。
しばらく歩くと木の枝に赤い布がかけられていた。
先日この場所まで足を踏み入れたことを示す印だ。

それより先は未だ誰も足を踏み入れていない未知の森・・・。


のハズであった。

彼らは、自分達より先に森の奥へ分け入った者の存在を確信する。


魔物の切り刻まれた残骸が、
おびただしい数の残骸が転がっていたのだ。
posted by ラストエフ at 13:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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